本研究は、工業化の時代に先駆けて都市化の影響により変貌する西欧近代の歴史的特色に注目し、社会インフラの変化を目印にその要因となりうる商業化、産業集積、制度蓄積の経緯を分析して都市化の意義を鮮明にすることを主たる目的とする。また、かかる分析結果から、成熟した産業社会に不可欠な都市の成長を通して醸成される豊かな歴史的意味を探究する独創的な研究方法を確立することを目指す。 平成25年度には、前年度得られ知見をもとに実証分析の予備的研究を継続し、その結果、明らかになった点は、以下の2点に要約することができる。第一に、都市制度の発達を促す要因を考察する際に、公権力側の論理(公式性)を見る一方で、実際に制度を運用し利用する都市民の論理(非公式性)が混在することにも注目するという、都市史の研究でこれまで見過ごされてきた視点である。例えば、中世から近世にかけて発達する都市の市場(いちば)は、こうした都市史の文脈においてその発達のメカニズムを考察できるわかりやすい事例である。また、同様に、「カンパニー」、あるいは、「コーポレーション」という西欧都市独特の組織形態を基礎に発達する経済組織も、「公式性」と「非公式性」をキーワードにその発達の過程を説明することができるテーマであることもわかった。 第二に、公共建築物が集中する商業中心地には、都市独特の経済空間が生まれるが、そこでは、単純な経済効率と利便性の論理よりもはるかに複雑な政治、社会、文化的論理に基づく経済生活が展開されていたことも明らかになりつつある。こうした発見は、主に商業化や制度変化の視点から分析されることが多い市場空間の歴史的意味を、建物や施設という公共設備の考察を含む複眼的アプローチをもとに広い視野で分析する必要性を示している。
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