本研究の目的は、純粋持株会社化が、成長や利益などの経営成果に与える影響を考察することにある。研究成果は、山口大学経済学会ディスカッションペーパーシリーズNo.18『企業形態から見た持株会社の歴史的変遷~敗戦と経済不況に対する反応~』、No.19『大規模企業の経営成果は純粋持株会社化によって変化するか?』としてまとめた。 日本の持株会社は、太平洋戦争の敗戦と平成経済不況を契機として、大きく変容してきた。敗戦前においては、持株会社の設立は自由であり、財閥という形態による持株会社の活躍する時期が続いた。敗戦後、財閥解体と独禁法の制定により、純粋持株会社設立は禁止され、事業持株会社が形成する企業集団という形態が興隆した。平成経済不況期には、純粋持株会社が解禁(1997年)され、現在は、事業支配力過度集中規制のもとで、持株会社の設立は認められるに至っている。つまり、敗戦や経済不況といった環境変化を契機として、日本の結合企業形態は変容し続けており、いかなる形態の結合企業が、中心的存在として活躍してきたかは、時代ごとに異なっていることが分かった。(No.18) そこで、平成経済不況の頃から、その役割の重要性が高まりつつあると考えられる純粋持株会社について、純粋持株会社化前後の経営成果を比較し、パフォーマンスが高まっているのか否かを分析した。経営成果指標は、業界による調整を行った総資産営業利益率、総資産成長率、売上高成長率を用いた。その結果、収益性の観点からも、成長性の観点からも、純粋持株会社化の前後において有意差は見られず、経営成果が変化したとは言えないことが明らかとなった。このことにより、純粋持株会社解禁派の主張してきた「効率的な企業組織の実現」や、反対派の主張してきた「財閥復活による経済力集中」が、実証的には支持されない可能性のあることが明らかとなった。(No.19)
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