本論文は、昨今見られる職場における人間関係の悪化を受け、コミュニティー形成に着目している。かつての日本企業では良好な人間関係が大きな組織的メリットであったが、成果主義の導入等で年功序列が育んで来た世代間の交〓というメリットが後退している傾向が認められる。そこで、職場での連帯感を復元させるために、あえて組織でないフィールドを選定し、人間関係の構築に欠かせない要因を識別するために6ヵ月間に渡る、特定の居酒屋での人間による相互作用を観察した。なお、理論的枠組みとしての組織的シチズン行動(OCB)、コミュニティー形成およびサードプレイス(第3の場所)という3つの概念を用いている。また、本研究の最大の新規性は職場以外の場所で職場の人間関係の改善を把握しようとする所といえよう。 東京都神楽坂という地区を観察の場とし、複数の居酒屋を観察した上で、常連客が多い一軒の店を選定した。そこで行われたフィールド観察やインタビューは、人間関係的な機能、役割、社会的なつながりやコミュニティーを構築する上で効果的なドライバーを発見するために分析を試みた。その調査結果として、リーダーの役割が「監督」ではなく、「ホスト」として再定義する必要があることが示唆された。また、「遊び心」も、職場での相互作用の好循環を駆動するための主要なプラットフォームとして浮上した。これらの結果を受け、職場における工夫を提案しているが、こうした提案の有効性を見極めるためには実証研究が今後と課題となる。
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