研究課題/領域番号 |
23653109
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
渡邉 光一 関東学院大学, 経済学部, 教授 (30329205)
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キーワード | 生活物語 |
研究概要 |
本研究の目的は以下の2点である。1.生活者の商品利用に関する因果判断を具体的に説明する物語(以下、生活物語)を、世界標準技術のXML/UMLを用いて、自然言語の柔軟さ・具体性と数理モデルの厳密さ・普遍性を併せ持つ構造化物語データにより表現し、「定性分析と定量分析」「研究と実務」「調査と広告」の間をよりシステマチックに連携させる。2.生活者には知識・理解レベルの垂直的高低とライフスタイルの水平的差異があるため、生活物語をやみくもに収集しアドホックに分析しても「砂中に金を探す」如く非効率である。本研究は、構造化物語データを用いて、生活物語の仮説を実験計画的に用意した上で調査し、ウォンツやポジショニングの叙述として適切な生活物語をシステマチックに抽出する。 24年度は上記1のための背景理論の検討を踏まえた上記2の準備として予備実験データの収集を継続して行った。また、並行してUMLによる物語表現のプロトタイプを、主としてオブジェクト図とシーケンス図を用いて検討した。これにより、両者の接続のための基盤となるクラス設計をほぼ終了した。これにより、今後はその目的を達するため、結果データを、本研究および従来の分析方法で分析し、両者を比較することで本研究の効果を検証するとともに、それぞれの調査・分析結果について、調査回答者及び専門家に対してヒヤリングを行ない、第3者からの客観的な効果検証も行うことで、萌芽段階から実務の実態を念頭に入れた研究とするための基礎が準備できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、24年度は上記1のための背景理論の検討を踏まえた上記2の準備として予備実験データの収集を継続して行った。また、並行してUMLによる物語表現のプロトタイプを、主としてオブジェクト図とシーケンス図を用いて検討した。これにより、両者の接続のための基盤となるクラス設計をほぼ終了した。 クラス設計のための背景理論としては、社会学・心理学の価値観の受容や態度変容と情報技術の関係ついての共同研究を進め、従来のマーケティングや社会科学全般の方法論の課題を考える上で興味深い先行研究が散見する。たとえば、人がある価値観を受け入れる入信・回心のプロセスを説明する古典的な理論モデルであるLSモデル(Lofrand & Stark)は、消費者がある商品のコンセプトを受け入れるプロセスを説明する古典的なAIDMA・AIDA・AIDCAなどのあるいは近年のAISAS(電通)・AIDEES(片平)などの理論モデルと近似するものであるが、態度変容により特化している点が長所となる。しかし、状態記述要素がステップ(状態)として混在しているなど状態遷移を適切にモデル化しない短所もある。これら長所・短所は、マーケティング分析においても共通するものであり、そこでの課題を明確化することがより有益な方法論の開発につながる。また、自然言語で述べられた個人史(つまり生活物語)を分析するライフヒストリー法(Bertaux、Langness/Frank、中野/桜井など)が1980年代から盛んに利用されている。その分析方法は、質的データ分析によくあるようにブラックボックス化しており、恣意的・主観的であることが批判されている。一方で、語り口の変化、登場人物間の出現頻度差、ミメーシス(模倣)性など、分析上の注目点・経験則が研究されており、生活物語の状態遷移の定式化・構造化に利用できる。
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今後の研究の推進方策 |
予備実験データは、上記検討を踏まえて分析方法を検討し、その生活物語の構造抽出のための基礎データを収集し、構造を構成する組み合わせ空間の中で探索すべき部位を同定する。方法的には、時系列制約付きの組み合わせ要素最適化問題または時系列制約付きの構造抽出問題として定式化して分析していく。 そのため、以下のような3点の流れで研究を行う。1.従来課題の検討と仕様・分析方法の策定:構造化物語データ・市場調査システムの技術仕様と分析方法を策定する。システムは、自然言語で記述された仮想生活物語をコンジョイント分析のように実験計画的に多数作成し、その1つを各回答者に提示し、自由回答と定量調査データと統合した構造化物語データを作成し、因果判断を踏まえた分析を可能とする。上記のように、そのためのクラス設計はほぼめどがついている。2.調査:いくつかの調査テーマを定めて、本研究の市場調査システムによる調査と、統制条件として従来方法による調査も実施し、それぞれの方法で結果データを収集する。これについても、予備調査データを複数回収集しており、スムーズなデータ収集が期待できる。3.比較分析:それらの結果データを、本研究および従来の分析方法で分析し、両者を比較することで本研究の効果を検証する。また、それぞれの調査・分析結果について、調査回答者及び専門家に対してヒヤリングを行ない、第3者からの客観的な効果検証も行う。これは、来年度に本格的に行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
費用を上記の1から3により説明する。1.上記のように、仮想生活物語のクラス設計はほぼめどがついているので、それを踏まえて、仮想生活物語をコンジョイント分析のように実験計画的に多数作成し、その1つを各回答者に提示し、自由回答と定量調査データと統合した構造化物語データを作成し、因果判断を踏まえた分析を可能とするシステムを完成させる。そのための、システム開発費用が必要である。2.調査:完成した調査システムにより、いくつかの調査テーマを定めて、本研究の市場調査システムによる調査と、統制条件として従来方法による調査も実施し、それぞれの方法で結果データを収集する。そのための調査費用が必要である。3.比較分析:それらの結果データを、本研究および従来の分析方法で分析し、両者を比較することで本研究の効果を検証する。また、それぞれの調査・分析結果について、調査回答者及び専門家に対してヒヤリングを行ない、第3者からの客観的な効果検証も行う。そのため、調査会社を通じて回答者及び専門家への収集を行い、ヒヤリング謝金を支払う。
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