本研究は、国際会計基準を巡るコンバージェンスないしアドプションを巡る各国間の動向を、実験比較制度分析という新しいアプローチにより検討することで、この問題の経済的な帰結を予測すると共に、世界経済の中で我が国が果たすべき役割(会計戦略)の一端を明らかにすることを目的とするものである。具体的には、本研究では、会計制度を各プレイヤーの「共有予想」(ゲームの均衡)として捉え、田口[2009]の理論モデルで示される「国際会計基準のジレンマ」問題を精緻化すると共に、実験経済学の手法により、当該モデルを実験的に検証し、その経済的帰結ないし「意図せざる結果」を明らかにする。 プロジェクトの最終年度となる平成25年度は、特に前年度までの経済実験により得られたデータを精緻に解析し、英文ジャーナルへの投稿作業を行うとともに、経済実験で得られた当初理論予想から乖離した「意図せざる帰結」を、ゲーム理論のモデルにフィードバックする作業を行った。また、研究プロジェクトの総括を日本語論文として執筆・投稿する作業を行った。その結果、査読付英文ジャーナルに1本共著論文を掲載するに至った。またこのほかに日本語論文を3本執筆・掲載するに至った。 我々の研究から得られた知見は、以下のとおりである。1:EUなどによって過去に実際に行われた同等性評価を前提とすると(会計基準の品質に相違がない場合)コンバージェンスは極めて困難となること、2:国際会計基準審議会が自らの目的を貫き、国際会計基準だけが唯一品質の高い会計基準であるという状況を世界に創りあげたとしても、コンバージェンスは極めて困難となること、3:ゲーム理論の相関均衡の考えからからすると、コンバージェンス達成のためには適切なエンフォースメントの仕組みが必要となること。
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