研究課題/領域番号 |
23653122
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
ヤマモト・ルシア エミコ 静岡大学, 教育学部, 講師 (20451495)
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研究分担者 |
宇都宮 裕章 静岡大学, 教育学部, 教授 (30276191)
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キーワード | 成人学習 / 在日ブラジル人保護者 / 自己啓発 |
研究概要 |
本研究は経済的困難な状況に置かれているブラジル人保護者らを対象にして、彼らのこの厳しい経済・社会的現状からの脱却が可能かを検討する。本研究は、フィールドワークの研究方法を用いて地域社会に根差した成人教育の実践を遂行し、当事者らの社会的意識の変化を検証する。研究初年度から保護者らの社会的意識の啓発を資する目的で講演会、ワークショップ、グループディスカッションを重ねてきた。これらの活動で議論された内容を分析し、新たな活動を展開した。これらの実践を通して得た知見は次の3点である。1.ブラジル人コミュニティ内における保護者同士の連携が弱く、生活上の諸問題は個人レベルで解決される。また保護者らが抱える共通の教育問題及び解決策は共有されない傾向がある。2、日本人地域住民または日本人保護者らとのつながりは希薄である。3、ブラジル人保護者らの教育に関する問題認識は高いが、問題の解決につながる行動をとることができていないでいる。これらの知見を踏まえて考えられることは、狭い社会的ネットワークのなかで、また数少ない情報源のなかで保護者らが教育問題を検討し子どもらの進路を選択する。保護者らは日本の教育制度についての情報は得られているが、在住する地域の社会的ネットワークに参加していないことから教育に関する暗黙の情報が得られていないと言える。また同じ集住地域に異なる教育制度(ブラジル人学校、日本公立学校等)を選ぶ保護者らが住んでいることから子どもらの教育諸問題は共有できる課題だと見なさない傾向がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度に企画した学習活動を地域コーディネーターらが実践し、ブラジル人保護者らの参画を得た。この段階では弱いながらもブラジル人コミュニティー内の社会的ネットワーク作りができた。研究2年目にはネットワークの拡張を目指して地域コーディネーターの役割を強化し、地域活動実践者の輪を広げていた。また前年度に続き外国人保護者向けのグループディスカッション、ワークショップ等を開いた。日本人地域住民の参加を意識した活動も計画し、海外での多文化社会活動の実践を紹介する講演会及びワークショップを開いた。この活動を国籍を問わない地域内連携を促す仕掛けとした。これらの実践は計画通りに進んでいるが、参加者数は思ったより伸びない。次年度の課題として吟味する予定である。 かつては日本人及び外国人住民が同地域に居住していても住民相互の交流が希薄なため地域における諸問題(教育、防災、諸々の生活上の問題等)を両者の共通問題だと認識されてこなかった。今後も両者の接点を探りながら地域内の(社会的)ネットワーク作りにつながる実践を続ける。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には自己啓発を目指す活動(講演会、ワークショップ、グループディスカッション、情報提供等)を行った。しかし参加者らはこれらの活動は抽象的で彼らが抱える諸問題の即解決につながらないと評価し実践に疑問を投げかけた。次年度からは「自己啓発」の具現化を意識し、一つの具体的な課題に特化した活動(外国籍児童及びその家族が抱えるの教育問題)を設定する。つまり本研究は目的通り「自己啓発と言わない自己啓発」活動を行いながらブラジル人保護者らの社会的意識の変化過程を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述した研究計画を進めるに当たって、実践参加者らの「共用空間」を設定する。活動の母体(拠点)となるグループ形成に努め、この母体(拠点)をとおしてネットワーク作りにつながる活動を展開する。具体的にこの母体(拠点)は人と人、情報と人をつながる役割を持つ。このネットワーク作りに母体(拠点)のホームページを立ち上げ、地域内のコミュニケーションツールとする。また「自己啓発と言わない自己啓発」活動で保護者ら向けのワークショップ、グループディスカッション、映画上映等を継続し、新たに「教える・教わる」活動を加える。この活動では日本人・外国人住民らが趣味を通して培ってきた経験、技を教えるまたは教わる。例えば手芸教室、日本語・外国語教室、音楽教室等である。実践する活動はコーディネーター、支援参加者が協働で「学習の内容」を練り上げる。これらの相互作用の産物は本研究のデータであり、研究の方向性と評価を示す指標でもある。収集したデータを逐一に分析し、その結果を保護者らへ還元する。
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