研究課題/領域番号 |
23653122
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
ヤマモト・ルシア エミコ 静岡大学, 教育学部, 准教授 (20451495)
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研究分担者 |
宇都宮 裕章 静岡大学, 教育学部, 教授 (30276191)
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キーワード | 自己啓発 / 在日ブラジル人保護者 / 成人学習 |
研究概要 |
本研究の調査地である静岡県掛川市において平成24年度から自己啓発を目指す研究活動(講演会、ワークショップ、グループディスカッション、情報提供等)を行ってきた。しかし参加者らはこれらの研究活動は抽象的で彼らが抱える諸問題の即解決につながらないと批判し、研究実践に疑問を投げかけた。その後、「自己啓発」の具現化を意識し、一つの具体的な課題に特化した研究活動(移民家族が抱える教育問題)を設定した。換言すれば「自己啓発と言わない自己啓発」活動を行いながら外国人保護者らの社会的意識の変化過程を検証した。 これらの活動を通して明確になった問題は、①不安定な経済状況におかれている移民家族は子どもの教育計画を立てられないでいる、②教育熱心な保護者らは日本での子どもの進路、進学についての情報を十分に入手できておらず、情報源となる地域とのつながりが希薄である、③その一方、本国の大学に入学した子ども、あるいは日本の大学に入学した子どもらが少なからずいる。似たような社会的・経済的状況におかれている移民家族でなぜこのような相違が発生するのか、疑問が残る。本研究ではこの課題を検証しつつ、保護者の社会的意識の変化を調べる。具体的には移民家族が活用する社会的資源(ネットワーク)に焦点をあて、家族がどのような教育戦略を立てるのか。その戦略から見えてくる親の社会的意識を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、調査対象者を単なる情報提供者として見なすことなく、研究・実践活動にか欠かせない役割を担う人物とする。実施される研究活動には参加者でもある彼らの評価は重要であり、データでもある。このデータに基づいて「外国人保護者の自己啓発」につながる研究実践の改善を図ってきた。それにより、昨年からは実用的な課題に特化した研究実践を実施した。しかしこの実践に予定していた参加者らが集まらず、活動が軌道に乗らなかった。これらの問題点の改善に向けて、次年度からは外国人住民が活用する地域社会のネットワークを通して、保護者らの社会的意識を検証する。地域内のネットワーク(日本人・外国人間のネットワーク)の使用は外国人保護者の自己啓発を促進する効果をもたらすのか再検討する。さらにエスニック・コミュニティーが存在する掛川市では、外国人保護者らは内集団と外集団ネットワークの使い分けにより自己啓発の内容が異なるのかを検討する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、困難な状況に立たされている在日ブラジル人保護者らを対象にして、地域社会内に存在する多くの社会的資源を彼らが活用した場合、この状況からの脱却(厳しい経済的・社会的な状況からの脱却)が可能になるのかを検証する。例えば、地域社会に内在する社会的ネットワークを活用して仕事の安定化を図る、子どもらの大学進学を目指す。また受け入れ社会及び送り出す社会の地域社会に存在する社会的資源を最大限に活用して、生活基盤を固める。本研究では在日ブラジル人保護者らが生活空間とする「場所」及びコミュニティーを支える住民(移住者・非移住者住民)を地域社会とする。今後、この生活空間に内在するネットワークを通して保護者らが持つ社会的意識またの変化を検証する。先行研究では、現在の移住者らはトランナショナルな環境を生きていると指摘する。この知見を踏まえて、本研究ではこのネットワークの広がりを移住過程の双方(送出国・受入国)から検証する。激しい社会構造の変動から発生した在日ブラジル人の国際移動とそれに伴う諸問題を両社会(送出・受入社会)から検証し、「グローバル」なおかつ「ローカル」な視点を取り入れた研究が不可欠である。送出国及び受入国の地域社会に住居するブラジル人移住者ら(帰国者らも含む)に聞き取り調査を行い、各地域社会でフィールド調査を実施する。彼らが持つ地域社会内の社会的ネットワーク(強い・弱い帯紐-weak and strong ties-)をどう活用するのか、地域社会内で提供される公共サービスを使用するのかを調べる。最終的には保護者らはどのような教育戦略を立て、その戦略から見えてくる親の社会的意識を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、実践成果を定期的に地域外国人住民らに評価してもらい、「外国人保護者の自己啓発」につながる研究実践の改善を図ってきた。それにより、昨年からは実用的な課題に特化した研究実践(地域内のネットワーク作り)を実施した。しかしこの実践に予定していた参加者らが集まらず、活動(地域住民同士で教える・教わる活動)が軌道に乗らなかった。その結果、(地域住民講師への)謝金及び旅費に相当する額の未使用が発生した。 上述した問題点の改善に向けて、次年度からは外国人住民が活用する地域社会のネットワークを通して、保護者らの社会的意識を検証する。地域内のネットワーク(日本人・外国人間のネットワーク)の使用は外国人保護者の自己啓発を促進する効果をもたらすのか再検討する。さらにエスニック・コミュニティーが存在する掛川市では、外国人保護者らは内集団と外集団ネットワークの使い分けにより自己啓発につながる内容が異なるのかを検討する。
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