本研究の調査地である静岡県掛川市において平成24年から自己啓発を目指す研究活動(講演会、ワークショップ、グループディスカッション、情報提供等)を行ってきた。しかし、参加者らからこれらの研究活動は抽象的で彼らが抱える諸問題の即解決につながらないと批判を受け、研究実践に問題があると指摘された。その後、「自己啓発」の具現化を意識し、一つの課題に特化した研究活動(移民家族が抱える教育問題)を設定した。換言すれば「自己啓発といわない自己啓発」活動を実施しながら外国人保護者らの社会的意識の変化を検証した。 これらの活動を通して浮上した課題は次の点である。外国人児童生徒に対する教育方針が不明の中、移民家族は子どもらの公立学校への入学、進学とその後の進路に不安を持つ。教育熱心な保護者らは現行の教育制度について熟知していない、或いはそれについての情報を十分に入手できないでいる。また情報提供者にもなる日本人保護者らとのつながりが希薄で、限られた情報の中で子どもらの教育を考える。多くの保護者らは、本国とのつがなりを維持しながら子供の教育機会を本国にも求める。 また学校教育の成功例とされる子どもらは、日本あるいは本国の大学に進学している。大学に進学する子どもとしない子どもらの保護者ら教育観が異なるかを調べた。限られたデータの分析から浮上したのが、子どもらの進路の違いは保護者らの教育観の相違だけではなく、保護者らが持つ社会的ネットワークにもよることである。保護者らが持つ日本あるいは本国での社会的ネットワークの広さとそのつがなりの強弱によって得られる情報の量・質が異なる。情報源となる社会的ネットワークの活用によって子どもら進路の選択肢が広がると考えられる。
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