研究概要 |
高齢者の投票参加率の高さに関しては比較的早くから政治学や老年学の領域で関心が持たれてきており、有権者の高齢化が進むにつれて、あらためて関心が寄せられるようになった。しかし、高齢者の投票率が高い理由や高齢者の選挙への関心、投票行動に関しては十分に解明されているとは言えず、それらが及ぼす影響や影響力に関しても、種々議論されることはあっても、明確な根拠に基づいているわけではない。 投票行動は、合理的選択モデルや心理学的モデル、社会学的モデルなどで説明されてきたが、それらでは高齢者の投票行動や、それがもたらすと考えられる社会・政治的な影響を説明することは難しい。そこで、本研究では、高齢者の投票行動に関する社会老年学的モデルの構築を試みた。そして、前年度末にK市N区の65歳以上男女239,269人を母集団にして、全30の投票区から10区500人を確率比例抽出法により無作為に抽出して郵送法で実施していた予備調査から得られたデータ(有効回収票:240、回収率:48%)を分析した。その結果、次のようなことがあきらかになった。 高齢者の選挙への関心や投票率は高いが、国政選挙への関心や投票率に比べて地方選挙への関心や投票率はかなり低い。投票する理由の分析から、高齢者の投票行動は、「理念的投票」、「他人志向的投票」、「レジャー型投票」に分類された。高齢者の大多数は選挙本来の目的に沿った「理念的投票」を行っているが、「理念的投票」と「レジャー型投票」の間には順相関が認められることと、コスト意識は全体的に低く、このことが高齢者の投票率を高くしていると考えられる。政治、政治家に対する不信感が強く、期待感は極めて低い。政治的関心は高いが、政治的活動をしている高齢者はごくわずかである。政治的不満感や健康や経済などの不安感が高いほど、高齢者集団意識と政治集団の形成に関心も高いことが認められた。
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