いわゆる「新華僑」とは1980年頃以降に留学、仕事などで来日した中国人のことであるが、家族をともなって日本に来た者も多い。本研究は幼少時に親とともに来日し、日本で成人した「新華僑二世」の若者のアイデンティティをインタビューにより探ろうというものである。研究のきっかけは長崎大学に在学中の一人の新華僑二世(仮称、李)との出会いである。李と話しているうちに、李は日本と中国の間に立つことによって形成された独特のアイデンティティの持ち主ではないかと思われた。さらに、李も自身のアイデンティティに興味を持っており、多くの新華僑二世とのネットワークを持っていた。 本研究では李を研究協力者とし、初年度である平成23年度には11名の新華僑二世にインタビューを実施することができた。最終年度である平成24年度にはまず、インタビューを書き起こし、分析用のデータとして再構成を行い、プライバシーの観点から問題はないかインフォーマントのチェックを受けた。その結果、最終的に有効なデータは9人分となった。 多くの関連文献にあたり、データの分析を行った結果、興味深いことがわかった。インフォーマントの来日年齢は2歳から10歳(平均6歳)で比較的低いので、「日本化」が進んでいるのではないかと思われたが、意外にも全員が日本語だけではなく、中国語、あるいは中国の方言を自由に操り、純粋中国人、純粋日本人では到底不可能であるレベルで二つの国を客観視でき、両国の価値観を持っていることが分かった。インフォーマントの一人は「語学力が売りじゃないです。語学力だけなら、できる人は日本人にもいっぱいいます。自分が育つ中で仲の悪さ(日本と中国の)を見てきました。この現状をよくできるのは二つのバックグラウンドを持つ自分にしかできないと思います」と言った。筆者には本研究のインフォーマントらこそ真のグローバル人材ではないかと思えた。
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