本研究は、障害当事者が設立したNPO・自立生活センターなどにおいて実践されている、在宅における介助者等による人工呼吸器装着者へのたんの吸引などの「医療的ケア」に対して、エスノメソドロジーの視点を用いたビデオ録画を併用したエスノグラフィー(ビデオエスノグラフィー)、当事者・介助者へのインタビューなどを行うことにより、生活支援行為としての医療的ケアの「実践の論理」を明らかにすることを目的とした。 調査データの収集に関しては、札幌のNPO、特にベンチレーター(人工呼吸器)装着者へ医療的ケアを行っている団体に協力をお願いした。その過程で、日本ALS協会札幌支部などのメンバーに協力を得ることができて調査とデータ収集を行った。これらビデオやインタビューのデータ、資料を元にエスノメソドロジーと会話分析の観点に基づいて分析を進めた。また、障害者自立生活運動における医療的ケアの考え方についてのインタビュー調査を行ってきており、継続的にその調査データをもとに考察・分析を行った。 これらのエスノグラフィー、インタビューなどを通して障害当事者や介助者の視点から培われてきた医療的ケアを考察した結果、本研究ではALS者の医療的ケアにおけるコミュニケーションの問題に焦点を当てる方向をとった。その中でも特に「口文字」と呼ばれる介助者との協働によるコミュニケーション方法がどのように行われるかを中心にエスノメソドロジー・会話分析の発想をもとにして考察し、その実践には介助者との共同的知識や相互行為上のさまざまな方法の熟達が前提となるため、介助者との継続的関係や日常的知識の積み重ねが必要であることが明らかになった。これらの成果は、日本社会学会、国際会話分析学会(2014年6月予定)などの学会で発表される。
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