研究課題/領域番号 |
23653135
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
関 いずみ 東海大学, 海洋学部, 准教授 (20554413)
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研究分担者 |
後藤 雪絵 東海大学医療技術短期大学, 看護学科, 助教 (70551365)
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キーワード | 女性組織 / 高齢者支援 / 担い手の高齢化 / 共助システム / 起業活動 / 地域の連帯感 / 漁村の強み |
研究概要 |
平成24年度の調査研究では、高齢者支援活動について、地域における女性組織との関わりに注目しながら前年度に引き続き現地調査及び分析を行い、学会誌において成果報告を行った。主な内容は、漁村地域における高齢者支援活動の担い手と特徴的な活動内容、及び活動推進に係る課題である。 活動の担い手については、漁協女性部のような地域内の既存の組織だけでなく、高齢者支援という明確な目的を持った新たな組織の創出事例が多くみられた。活動内容としては、食事の支援や高齢者が集まる場づくりが中心であった。食事の支援では、これまでも未利用魚を利用して地元向けに加工・販売する活動を行っていた女性たちが、社協の依頼で配食サービスの活動を開始するといった事例がみられた。配食時には安否確認を行う等、地域の高齢者に対してきめ細かな配慮をしていることが伺われた。また、漁村のように住民相互のつながりが強い地域では、地域内の人々が皆顔見知りであり、高齢者夫婦世帯や一人暮らし世帯については日頃から近所中で気をつけていることが、多くの地域で確認された。このような地域の中には、出役(地域内の共同作業)の際には高齢者にも積極的に声をかけ、その人の心身の状態に合わせた作業を割り振ることで、誰もが地域の中で役割を持っているという生きがいを感じられるような工夫をしているといった事例も見られた。 一方で活動の課題としては、担い手の高齢化や後継者不足、活動経費の問題が抽出された。担い手については漁村自体の過疎高齢化が背景にある。活動の主体となる元気な高齢者が多いことは良いことであるが、5年後、10年後の地域の高齢者問題は深刻である。また後継者となる若手の不在は、これまで女性たちが担ってきた地域活動の停滞を招くとともに、地域の行事や食といった地域文化の継承の断絶をも意味しており、漁村地域そのものの維持継続にとっても重大な課題となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
事例調査を通して、漁村における高齢者支援活動の主体や活動の内容について整理することができた。また、活動の課題について、①担い手組織の高齢化、②後継者不足、③経費の捻出、④男性高齢者への対応、⑤防災とセットになった高齢者支援活動の重要性、といった具体的な項目を提示することができた。特に、災害時には沖に出ている男性に代わって、陸上で家族や地域を守るのは女性の役割となる漁村にとって、女性たちの日常的な高齢者との関わりが防災・減災に大きな役割を果たすことは、漁村ならではの高齢者支活動の捉え方として重要と考えられる。さらに、今後の調査研究の展開として、高齢者支援活動が経済活動と結び付くことで担い手のモチベーションの維持が図られる点や、活動自体がもたらす地域活性化の動きについて明らかにしていくという方向性を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、事例調査及びその分析を進め、漁村における高齢者支援活動のあるべき姿について考察する。漁村は都市部に先行して進む高齢化や過疎化、自治体の財政難等、直面する課題は大きいが、漁業は生涯現役が可能な産業であること、魚を捌いたり加工するといった技術を持ち自らの手で食を生み出せること、互いの生活を知り尽くすような強い連帯感があることといった、漁村ならではの強みともいえる特徴は、高齢化社会を乗り越える鍵にもなり得る。また、海上作業は男性、陸上作業は女性というような明確な役割分担は、漁村女性の地域活動の参画率を高めてきたと考えられる。高齢者支援活動は特に他の機関やグループとの連携が必要となる活動であり、経済活動とも結びついていく可能性を持っている。その意味では、これからの女性活動のあり方を示唆するものと捉えることもできる。活動を通して、支えられる高齢者自身の生活だけでなく、活動者である女性たち自身の糧になっていく、そのような形こそが、求められる活動のあり方につながっていくのではないだろうか。 その具体例として、漁協女性から出資者を募り、その活動の一環として高齢者のための弁当や総菜の製造・販売を行っているグループがある。無償のボランティアでは活動は続かないし、後継者に引き継ぐことも困難である。少しでも報酬があれば、活動する人のモチベーションにもつながる。また、活動がもたらす利益は金銭だけに集約されるものではない。自身も家庭で介護をしながら地域活動に参加することで、息抜きや生きがいを感じている、このような活動を通して地域での仲間が増えた、日々の生活に張り合いができたといった意見も聞かれる。高齢者支援に資する活動は、活動する人々にとっても生きがいであり、コミュニティビジネスのような地域の経済活動に結び付いていく可能性も秘めていることを念頭に、今後の活動の在り方について提言していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費については、主に事例調査のための旅費及び、研究成果の発表として学会誌への論文投稿費用として使用する。次年度は、①支援の受け手である高齢者自身の、地域の中で生きていくことへの意思や課題について、②単に地域のボランティアにとどまらない、新たな産業創造等の活動の広がりの可能性について、③活動を支える漁村の強みについて、の3点を核として調査を実施する。事例地区については、コミュニティビジネスとしての高齢者支援活動を実施している地区(山口県萩市三見地区等)や、高齢者が安心して地域の中で生きていくことができるように、高齢者自らが自発的に活動をしている地区(高知県安芸市等)、漁村地域との比較のために都市部で実践されている高齢者支援のNPO活動(東京都立川市等)を候補とする。また、論文については、平成24年度の続報として、次年度成果について整理し発表する予定である。
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