中国において、愛情という他者を慈しむ感情が、社会的・文化的諸変動のなかで、どのように表現され経験されてきたのかを、社会学的・心理学的・文化史的に探求し記述をした。なかでも「百鳥衣」「十兄弟」「白蛇伝」など近世中国を代表する民間の物語を分析することによって、大帝国ならびに家父長制的な家族との力関係のなかで展開する、親子間・同性間・異性間の愛情の精神的な経験の内実を示すとともに、そうした伝統のなかで、現代の中国文化圏において「親愛の文化」が変容しさらに深化していったさまを、香港映画を題材として示した。これらの研究によって、「中国における愛情の歴史」を包括的かつ学際的にとらえる道筋を明らかにした。
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