研究課題/領域番号 |
23653143
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研究機関 | ノートルダム清心女子大学 |
研究代表者 |
二階堂 裕子 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 准教授 (30382005)
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キーワード | 社会学 / 「非定住型」外国人 / 社会的統合 / 技能実習生 / ベトナム |
研究概要 |
本研究では、外国人技能実習生を対象とする日本語学習支援活動に着目しながら、在日外国人と彼/彼女らをとりまく日本社会の現状の一端を解明したうえで、「非定住型」外国人を視野に入れた社会的統合のあり方とその成立条件を検討することを目的としている。とりわけ、近年、日本との経済的連携が深まっているベトナムに焦点を当て、ベトナム人技能実習生と彼/彼女らの受け入れ企業、および日本語学習支援を行っている団体などを対象とした調査研究を実施している。 平成24年度は、前年度に引き続いて、ベトナム人技能実習生に対する生活史のインタビュー調査を行った他、技能実習生が就労する関西の金属加工の企業を対象とした調査に力点を置いた。まず、平成24年9月に、こうした企業がベトナム国内で技能実習生候補者を対象とする採用面接を行うにあたって、採用担当者らの渡越に同行した。その上で、採用の趣旨や採用基準などに関する聴き取り調査を実施するとともに、面接会場内において質疑応答の現状を視察した。さらに、帰国後、これらの企業のうちの数社を訪問し、人事担当者にベトナム人技能実習生の受け入れに至った経緯や今後の展望などを丹念に聴き取るとともに、技能実習生らの就労状況や社内における日本語学習支援の取り組みに関するデータを収集した。 これらの調査の結果、ベトナム人技能実習生の生活を取り巻く現状や日本語能力の習得の度合いが彼/彼女らのキャリア形成に与える影響について検討することができた。また、技能実習生の就労先企業が日本語学習支援に取り組むための条件とその活動の意義について考察を加えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、ベトナムおよび日本国内において、ベトナム人技能実習生と彼/彼女らの就労先企業を対象としたフィールドワークを重点的に行った。 その成果として、第1に、技能実習生の採用から日本での就労、さらにベトナム帰国後の再就職に至るまでの経緯を、総合的時系列的に理解することができた。その結果、ベトナム人技能実習生が日本での就労生活を通じて、労働に対する新たな認識や十分な日本語能力を習得することができれば、それは彼/彼女らにとって、帰国後に所得や職業的な地位の上昇を図るための手段となりうることが明らかとなった。 第2に、受け入れ企業側の技能実習生の採用動機や日本語学習支援に対する意識、取り組みの現状を把握することができた。その結果、企業が実施する日本語学習支援活動は、職場内における日本人従業員とベトナム人技能実習生の間の意思疎通を容易にすることにとどまらず、グローバル化によって企業が熾烈な生き残り競争を強いられる中で、経営戦略の方策としても有効となりうることが示唆された。 このように、フィールドワークによって、企業による日本語学習支援活動がもたらす成果を多面的に考察することができた点は、24年度の大きな成果であると考える。 一方、日本語学習支援活動にかかわる企業以外の主体(市民ボランティアや技能実習生の受け入れ団体など)については、今後重点的にデータ収集を行う必要があり、25年度はこれを課題として調査研究に取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究実績をふまえ、日本語学習支援活動を実施している市民ボランティア団体などでインタビュー調査や参与観察を実施し、企業が行う日本語学習支援活動との相違やその意義、また企業との連携の可能性やそのための条件などを明らかにする。 これに加えて、ベトナムにおけるフィールドワークを引き続き実施し、これまでに得た知見の検証を進めたい。具体的には、日本における技能実習経験者の帰国後の生活について追跡調査を行い、日本での就労経験や日本語能力の習得度合いが与える影響についてさらに検討を加える。また、日本国内でベトナム人技能実習生を受け入れた後、ベトナム進出を図り、現地で元技能実習生を再採用した日本企業を対象に調査を行い、ベトナム人元技能実習生と就労先企業の間に構築されている関係やそれがもたらす効果、今後解消されるべき問題点などを追究する。 さらに、今後は収集したデータの分析により精力的に取り組み、滞在期間を制限された、いわば「非定住型」の在日外国人と日本社会の望ましい関係について考察を深める。この作業を通じて、今日、外国人技能実習生が直面している火急の諸課題について解決の糸口を探るとともに、より包括的な社会的統合モデルを提示する。その上で、学会などでの報告や論文投稿はもちろん、各種市民講座やシンポジウムへの参加、行政機関への提言などを通じて、これまでの研究成果を社会へ還元できるよう努めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、外国人技能実習生・社会的統合に関する社会学関連図書やコンピュータ周辺用品の購入などのため、「物品費」として3万円を見込んでいる。また、ベトナムや日本国内における調査実施に要する「旅費」として20万円を執行する予定である。この他、音声起こし作業やベトナムでの通訳にともなう費用として「人件費・謝金」を12万円、現地調査時のレンタカー使用料金や研究成果報告書の印刷代金などのために「その他」を5万円、それぞれ見込んでいる。
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