本研究の目的は、技能実習生を対象とする日本語学習活動に着目し、そこで学ぶ技能実習生の主体性を視野に入れつつ、取り組みの意義と課題を明らかにした上で、多文化化が進む日本の社会的統合のあり方を検討することであった。近年、日本との経済関係が密接となっているベトナム出身の技能実習生を事例として調査研究に取り組んだ結果、以下の知見を得た。 ①技能実習生が、日本での就労経験を通じて、労働に対する新たな認識や十分な日本語能力を習得することができれば、それは彼/彼女にとって、帰国後に所得や職業的な地位の上昇を図るための有効な資源となりうる。これに対して、技能実習生が長時間の残業を強いられた(あるいは自ら引き受けた)場合、日本語能力の習得が困難となり、キャリアアップの機会も減少しやすい。 ②人件費削減と販路拡大を目的とした海外進出を近々見込んでいる日本の企業にとって、日本語能力と日本の企業文化を身につけた技能実習生は、現地で即戦力として活用しうる貴重な存在であり、企業による日本語学習活動の実践は生き残りをかけた企業戦略としても有効である。 ③家族主義的なコミュニティとしての性格を有した職場において、インフォーマルなつきあいにもとづく濃密で信頼に満ちた絆を形成することが、企業としての活動にも有益であると認識されており、それが実践されている場合に、技能実習生と日本人従業員が同じ企業の一員としての意識を共有する可能性がある。そうした職場で、仲間意識を強化しうる取り組みの一つが、技能実習生と日本人従業員の間で日々交換される日記に象徴されるような日本語学習支援活動である。 ④「非定住型」外国人労働者の望ましい社会的統合のあり方として、彼/彼女らとホスト社会の人々の双方が、現在および未来にわたって何らかの利益や幸福を享受できることが重要である。
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