本研究の目的は、ロッククライミングという非日常的活動の場で、視覚障害者同士、および視覚障害者と晴眼者がクライミングを行う際に取るコミュニケーションの諸相を記述・分析し、非言語的コミュニケーション(身振り、眼差し等)が制限された環境における言語的コミュニケーションの限界を明らかにするとともに現場での工夫による視覚障害者と晴眼者との多様なコミュニケーションの可能性を発見し障害者福祉に貢献することにある。 平成23年度にはNPO法人モンキーマジックとのコンタクトを開始し信頼関係(ラポール)形成と予備調査を行った。また、文献調査によりエスノグラフィー作成の準備と障害者スポーツ一般に関する従来の理論の検討を行った。 平成24年度には、一般登山者やクライマーへの聞き取り調査とアウトドアショップ等での障害者のアウトドア活動についての実情調査を行った。それによりボランティアによる「無償」の援助とクライミングスクールなどによる「有償」のサービスに対する肯定的/否定的な意識が、障害者がアウトドア活動に参加する際の実際的な軋轢の原因となっている可能性があることを突き止めた。これが、本研究の開始時に想定していた視覚障碍者と晴眼者との表層的コミュニケーションの深層部にあるコンフリクトの原因であるとの観点から、研究の方向の修正が必要となり、調査フィールドの見直しをすることになった。 しかしながら、調査フィールドの見直しに際して、本研究申請者の所属機関における職務の異動(語学教育にかかわる職務のエフォート率の増加)に伴い、調査旅行を行うことが極めて困難となり、最終予定年度の平成25年度には前年の調査にもとづく限られた補足的データ修正にとどまり、また、研究費を繰り越した平成26年度においても関西地区での限られたデータ収集を実施できたのみで、データ分析および成果の発表については、今後の課題となった。
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