今年度は、都市におけるセルフネグレクト事例の実態把握と支援策を検討することを目的に、先行研究においてセルフネグレクト事例を最も把握できていたとされる民生委員に対して量的・質的調査を行った。量的調査は、東京都内の経験年数3~9年程度の民生委員に対して郵送による質問紙調査を行った(回収率69.5%)。質的調査は、質問紙調査の回答者のうち、セルフネグレクト事例に3ケース以上関わった経験があり、調査への同意が得られた20名に対して半構造化面接を行った。 主な調査結果は以下である。担当地区内にセルフネグレクト状態の人がいる(いた)民生委員は4割いて、そのうちの55%は見守りや訪問などの支援をしていた。事例を知ったきっかけは「近隣住民からの連絡」や「調査等の訪問で偶然」が多いが、「本人から連絡があった」という回答も少数ながらあった。自己放任であっても本人から何らかのSOSが発信される場合もあることから、そのようなサインを発信してもらうためにも日頃から民生委員の存在を周知しておくことが重要である。世帯構成は一人暮らしが75%と多いが、同居者がいる事例も26%いて、家族全体が問題を抱え、孤立している状況であった。セルフネグレクト状態になった要因や背景としては、認知症、性格、独居・孤独、けが・病気、精神疾患、アルコール依存、家族の問題、経済的な問題、人間不信・対人拒否、医療不信、高齢、過去に訳あり、失業・離婚といった要因が抽出できた。状況の改善に実際に役立った支援やサービスは、「民生委員の見守り」「ホームヘルパー」「入院」を挙げる人が多かった。希望する支援策としては、本人が正常な判断ができない場合は行政による立ち入り調査や訪問指導等、強制力を行使することを望む意見や、地域包括支援センターや保健センター等の専門機関の相談・連絡体制に関する要望、個人情報規制の緩和に関する要望が多かった。
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