研究課題/領域番号 |
23653172
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
宮本 節子 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (60305688)
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研究分担者 |
浅井 亜紀子 桜美林大学, 言語学系, 准教授 (10369457)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | メディア / 社会系心理学 / 文化接触 / アジア系 / 医療従事者 |
研究概要 |
本研究の最終目的は、グローバル化とメディアの技術革新の中で、国境を超えて移動する人々の異文化体験にメディアがどのように関係しているかを明らかにすることにある。対象としたのは、経済連携協定(EPA)の締結に伴い開始されたアジア系看護師・介護福祉士候補者である。23年度の研究目的は、(1)国内マスメディア分析、(2)国内フィールドワーク、(3)海外調査である。このうち、(1)は順調に成果を出しつつあるが、(2)に一部に遅れが出た。(3)は延期した。以下、(1)と(2)に基づく研究の概要であり、学会等で発表した。最初に新聞報道分析に着手したのは、記事が、様々なメディアを通し、一般読者のみならず、職能団体、受入施設団体、市民組織など様々な関係諸アクターの態度形成に影響し、政府の公的アジェンダにも関わると考えたためである。具体的に収集したデータは、ウェブ報道と主要新聞紙面である。明らかになったのは以下である。1)ウェブ記事の内容分析。国家試験や受入体制など「制度」に集中している。識者や関係団体の意見は国家試験の時期や制度改定の時期に急増する。候補者の夢や来日動機、母国の事情や日々の暮らしを取り上げる記事の比率はきわめて少ない。2)紙面記事の見出し分析。2008年制度発足当時、日本国内の少子高齢化や看護介護人材不足を背景に、外国人労働力補充・多文化共生の問題が提起されていた。イスラム教徒の受入など異文化接触に関わる危惧も出されていた。しかし、次第に、制度批判、特に国家試験制度に対する批判へと論点がシフトしていた。3)語彙のテキストマイニング分析。「国家試験」に関する語彙が増加し「文化」は減少していた。語彙の係り受けは「国家試験‐合格」が各年度で上位を占める。「候補生」「人材」等の「人」が肯定的、「漢字」「日本語」「読み書き」等「言語」が否定的文脈で使用される。「労働環境」「報酬」等「職」は減少していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理由を以下に述べる。1.国内調査(面接型質問紙調査)の遅れ1)過去、看護師は2回、介護福祉士は1回の国家試験を受験している。しかし、合格率は極めて低く、大半が帰国を余儀なくされた。残留して国家試験に再挑戦するにも条件が厳しく、候補者本人と受入病院・施設共、指導体制や勤務環境に苦慮していた。一方、政府側も外交への配慮から、査証期限の延長、国家試験改訂など政策の変更が相次いだ。こうした状況の中、面談・訪問調査の時期が定めにくかった。2)近年、スマートフォンなど携帯端末の技術革新が相次ぎ、メディア環境は激変した。モバイル利用が主流となり、フェイスブックなどのSNSが急速に普及した。このため候補者のメディア利用を問う質問項目の改訂が増え、実施に遅れが生じた。2.海外調査(インドネシア)の延期当初の目的は2つあった。一つは、パーソナルメディアとマスメディアの調査である。国家試験不合格の帰国者が、どのような生き方を求め、どのようにメディアを用いネットワークを構築しているかを知りたいと考えた。日本での経験を生かすとすれば情報共有は欠かせないが、多くの島々からなるインドネシアの中で出身地が多岐に渡る帰国者同士が出会うことは少ない。今一つは、EPA看護師・介護士施策が、インドネシア国内でどのように報道され、それが世論や帰国者・家族にどのように影響しているかを調べることである。近年、新聞・テレビなどマスコミ報道が、パーソナルメディアと相互に複雑に作用することは知られている。しかし、不合格者の動向把握(残留の決定、帰国時期、査証期限、個々人の連絡先)は極めて困難であり、調査は延期せざるを得なかった。24年度中に実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の推進方策を国内調査と海外調査に分けて述べる。1.国内調査主たる目的は、(1)EPA制度およびその変化をマスメディアはどう報道したのか、(2)受入施設と候補者は、どのようなメディア(マスメディア及びパーソナルメディア)から情報を得ているのか、それは彼らの異文化体験にどう影響を与えたのかを検討する。(1)については、EPA制度の変化を、今年度同様、国内の全国紙、地方紙、インターネットのニュースの変化を追っていく。(2)については、聞き取り調査の時期が課題であったが(特に国家試験前や、受験後に合格か不合格か、不合格の場合1年延長するか否かがあいまいな時)、候補者および施設側と、より良好な信頼関係を築き、情報提供しやすい状況を整えていく。候補者のパーソナルメディアの活用については、昨年度急激なスマートフォンへの移行期を迎えたが、今年度はおよその現況を把握できる状況になってきたので、情報技術やネットワークに詳しい研究協力者と共同して、実態を把握する質問票を準備する。2.海外調査主たる目的は、(1)インドネシアにおいて、EPA制度がマスメディアによりどのように報道されているのか、(2)日本から帰国した候補者はどのようなメディアを使って情報共有を行っているのか、EPA制度についての報道をどう受け止めているのか、さらに、そうした情報は、将来のEPA候補者や一般のインドネシア人にどういう影響を与えているのかを検討する。(1)マスメディアは、現地の国際機関や関係者と協力し、主要なメディアを探り、現地語からの翻訳手順を構築する。また、これまでの調査で得た人脈を活用して、首都のみならず地方都市のメディア環境も調べる。(2)パーソナルメディアについては、帰国者とコンタクトがとれるよう連絡先を確保するとともに、帰国者同士、友人・知人のソーシャルネットワークのあり方を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度当初予定額に80万余の残額が生じた主たる理由は、海外調査を延期したためである。詳細については以下の2)に述べた。次年度の研究費は、国内調査、海外調査、学会発表・科研会議に関わる費用が必要になる。1)国内調査では、(1)EPA制度およびその変化をマスメディアはどう報道したかを調べるため、データベースからの情報収集、ウェブ情報収集、データ入力、データ整理などに研究補助者の人件費を見込む。(2)施設訪問、(3)候補者への聞き取りには、交通費、情報提供者への謝金がかかる見込みである。2)海外調査では、インドネシアの首都ジャカルタとその周辺部、および地方都市への調査を実施する。このため海外渡航費・宿泊費のほか、通訳への謝金、現地でのレンタカーや運転手などの諸費用が発生する。現地では、帰国した候補者や友人、知人、勤務先などの関係者や関係機関を訪問し、現地でのメディア環境を調査する。主要メディアや情報機器利用実態を尋ねる。このため通訳費用や、ジャカルタ新聞など現地邦人紙に加え、現地語の主要紙、ウェブ情報などの翻訳代も見込まれる。現地での情報収集スタッフの謝金、帰国後の情報整理、データ分析補助などの謝金が発生する。渡航費用、現地経費、および収集した資料分析が次年度の支出で大分を占める。3)学会発表は、日本社会心理学会など関連学会での発表を予定している。学会参加費、交通費、宿泊費などが必要となる。調査計画(特に海外調査の準備)や、学会発表、論文執筆のため科研会議を予定している。研究代表者のいる兵庫、または研究分担者、連携研究者のいる東京で開催するが、年に数回は会合をもつため、交通費と会議費が必要となる。
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