研究課題/領域番号 |
23653175
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
上北 朋子 同志社大学, 心理学部, 助教 (90435628)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | コミュニケーション / Octodon degus / 神経基盤 |
研究概要 |
本研究はげっ歯類Octodon degusを対象とした社会性に関する神経行動学的研究である。他者認知、意図認知、行動制御の3側面が円滑なコミュニケーションを支える能力であるという仮説のもと、これらの高次認知機能に関与する脳基盤の解明を目指した。本年度は、デグーの基礎的行動データの収集と社会性に関与すると考えられる脳領域の選択的破壊技術の確立に取り組んだ。 他者認知に関して2個体間の相互作用中の行動項目の分析のみでなく、どういった社会的刺激が他者認知に必要であるかの検討を行った。その結果、接触の機会がなくとも、視覚嗅覚情報により馴染みの相手個体への接近が誘発されることが明らかになった。 意図認知に関して、次年度実施するプレイバック実験の予備データを得た。集団事態と単独事態における警戒音に対する反応の分析により、集団事態の方が警戒音に対するフリーズの解除が早く、これにより環境探索量が増加することが分かった。 行動制御に関して、2種の迷路実験を予定していた。まず、典型的なモリス水迷路での空間学習において、老齢個体と若齢個体の学習方略の分析を行い、行動制御の柔軟性に関する知見を得た。加えて社会行動を支える候補脳領域の損傷技術の確立も同時に進めてきた。本年度は主に前頭葉の中でも眼窩前頭皮質の損傷技術の確立を目指したが、まだ十分であるとは言えない。 本年度は、これまで観察的データにとどまっていたデグーの社会的特性に関して、客観的指標を得ることができた。他者認知、意図認知、行動制御を査定するための行動実験の確立は、先行研究の不足する中で挑戦的取組みであったが、初年度にこれら3側面に関する基礎データが得られたことは、ひとつの成果であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)特定脳領域損傷技術の確立:対象行動の脳責任部位の特定には、損傷技術の確立が必要である。まず、前頭葉眼窩皮質の損傷に関して、デグー使用数を削減するため、ラットを用いて神経毒投与部位および投与量の特定を行った。しかし、これまで申請者が行ったきた海馬破壊から予測される薬物投与量では当該部位の損傷が不十分であった。(2)社会行動を規定する要因の特定(他者認知):デグーの仲間識別のために利用可能な刺激が異なる2直線走路の選好を調べ、デグーの仲間識別に関与している刺激は何であるのかということを検証した。その結果は、直接的コンタクトではなく、視覚刺激と嗅覚刺激が仲間識別に重要な役割を果たしているというものになった。これまで不足しているデグーの社会的特性の一面を明らかにすることのできた成果であるといえる。(3)プレイバック実験による反応性の検討(意図認知):防音箱内において警戒音に対する反応性を分析した。集団で存在する時と単独で存在する時の反応性が異なった。本研究は複数の音声に対する反応の分析を行い、これに対する損傷の効果を検討することも目的としている。この予備的データにより、本実験における状況設定の絞り込みができたと言える。(4)学習方略の柔軟性の検討(行動制御):本研究では、行動制御の柔軟性の脳機構を明らかにすることも目的としている。そこで、水迷路空間課題を用いて、学習方略の柔軟性に対する加齢または性別の効果を検討した。老齢メスデグーでは、課題解決が不可能な場合も同じ方略に固執する傾向が見られた。このデータは、月齢の異なる雌雄デグーがどのような空間学習解決方略を用いるかについての基礎データといえる。今後、本実験で用いる十字迷路での空間行動について基礎データを得る準備を進める。 本年度は、行動データに関してある程度の成果を得ることができたが、本計画に不可欠である損傷技術の確立が十分でなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度確立できなかった損傷技術に関して、見直しと調整を行うことを最優先する。他者の行動の意図認知に関して、本年度得られた知見をもとに本実験を行う。使用音声は差異が明確な警戒音と接触時発声の2種に絞り、集団事態における音声への反応性を比較する。その後、候補脳領域の破壊を行い、反応性に変化が生じたか、手術前後の行動変容について解析する。 本年度達成目標としていた海馬以外の脳領域の損傷が、他者認知に及ぼす効果について検討ができていないため、前述の意図認知の課題に他者認知の課題を包含する実験計画に変更する。具体的には、集団事態のペアーの設定を馴染み個体とのペアーおよび新奇個体とのペアーの2条件設ける。申請者のこれまでの研究により、ノーマルな個体では相手個体との馴染みの有無により、特に親和行動(グルーミングやハッドリング)の出現が異なる。相手の新奇性依存的な行動に及ぼす損傷の効果も検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は行動実験として鳴き声のプレイバック実験を本年度セットアップした録音録画システムを用いて行うため、装置に関する備品購入はこれらの調整費用に留める。本実験開始に伴い、ダブルブラインド法を採用するため、実験補助を1名に依頼する。次年度の最優先課題としての損傷手術に関わる試薬の購入、手術機器の購入が主たる使用用途となる。引き続きデグーの飼育管理費が必要である。
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