研究課題/領域番号 |
23653175
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
上北 朋子 同志社大学, 心理学部, 助教 (90435628)
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キーワード | Octodon degus / コミュニケーション |
研究概要 |
本研究では、円滑なコミュニケーションを可能にする神経基盤の解明のため、齧歯類デグー(Octodon degus)を対象に社会行動の神経行動学的研究を行っている。本年度は以下の3項目に関して実験を実施し、成果を得た。 i)前頭葉眼窩皮質の機能:円滑なコミュニケーションのためには、場面に応じて最適な行動を選択していく柔軟性が要求される。本研究では、前年度確立した技術である前頭葉眼窩皮質の損傷がラットの意思決定場面での選択に及ぼす影響を検討した。一連の実験により、前頭葉眼窩皮質は報酬の価値判断は正常であったが、報酬価値の逆転に際して行動を切り替えることが出来なくなった。したがって、前頭葉眼窩皮質が柔軟性に関与しているという仮説が支持された。 ii)環境モニタリング時の音声プレイバック実験:二個体または単独で環境モニタリングをさせ、一定時間後にあらかじめ録音しておいたalarm callを提示した。二個体条件では単独条件よりも刺激提示後のフリーズ時間が短かく、餌探し行動が長かった。デグーが他者の行動を認知し、環境モニタリングにおいて集団の利益を得ていることが明らかになった。 iii)デグーの社会的作業記憶:社会性の高い動物では相手の行動を記憶し、これを手掛かりにして自分の行動を決定する社会的作業記憶の存在が報告されている。協力的採餌をすることが報告されているげっ歯類のデグーに社会的作業記憶が存在するか、T字迷路を用いた場所非見本合わせ課題で検証した。結果、他者の行動を手掛かりにする条件においてもチャンスレベル以上の遂行が見られた。したがって、デグーにおいても社会的作業記憶に基づく行動の決定が行われている可能性がある。ただし、独自の行動がその後の行動の手掛りとしてより優位に機能することも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時における本年度の研究実施計画は、脳機能阻害技術の確立と音声のプレイバック実験の実施であった。 本年度、脳損傷技術の確立に加え、当該部位の機能をラットにおいて検証することができた。本研究では、柔軟なコミュニケーションを支える脳基盤のひとつとして、眼窩前頭皮質(Orbito Frontal Cortex: OFC)を候補としていた。神経毒イボテン酸の他店投与により、OFCの脳破壊技術を確立し、行動上の効果をラットにおいて確認できた点が大きな進展である。OFC損傷により衝動性が高まるのか、または柔軟性が欠如するのかについては、先行研究で一致していなかった。OFCが柔軟な選択行動に役割を担うという我々の結果は、本研究の仮説を支持するものであった。 プレイバック実験において、デグーが他者の音声および行動を認知し、自身の行動をコントロールしていることが明らかにすることができた。このことにより、デグーが集団の利益を得ていると考察できる。 以上の申請時の計画に加えて、T字迷路を用いた社会的作業記憶に関する実験を行った。これにより、げっ歯類における他者の行動の認知を直接的に検証する行動実験系を確立することができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究推進方策:実験の効率化を図るため、同一個体に対して複数の行動実験を行う。その際、動物にとって刺激の少ない迷路実験から開始し、その後、社会行動実験を行う。 研究計画の変更点:本年度はラットを対象にOFCの機能を検討したが、本年度はデグーのOFCが同様の機能を持つかを検討する。申請時の研究計画においては、浸透圧ポンプの埋め込みによる一時的な阻害を検討していた。しかし、行動実験に長い訓練期間が必要であることが明らかになった。これに伴い、OFCの長期的阻害が必要となるため、前年度確立した損傷方法をデグーに適応する。
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次年度の研究費の使用計画 |
脳部位破壊または機能阻害のための手術機器および組織学的検索のための染色試薬が必要である(試薬)。被験体であるデグーの飼育、健康維持のため専用の固形飼料と野菜、草などが必要である(飼育用餌)。動物飼育補助および行動実験補助を1名に依頼する(謝金)。本研究課題の成果、また本研究課題全体の総合的成果を国内および国際学会で発表する。本研究に関わる成果を論文にまとめる。これに加えて、デグー研究に関する総説を作成する。(旅費、論文校閲費)。
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