最終年度においては、行動制御の柔軟性を可能にする脳領域として前頭葉の役割を明らかにすることを目的とし、これに関する2つの研究課題について研究データの再分析と論文作成を行った。 1.デグーがT字迷路場所非見本合わせ課題の遂行において、社会的手掛りを有効に使用することができるかを検討した。その結果、デグーは社会的手掛りを用いることはできるが、場所見本合わせ課題の遂行においては、自らの行動経験のほうが走路選択の優位な手掛りとなることが明らかになった。本研究内容について国内学会で発表を行い、論文再投稿準備中である。 2.ラットの意思決定に及ぼす前頭前皮質損傷の効果を検討した。前頭前皮質の役割に関しては、柔軟性と衝動性のいずれに関与するか研究者間で見解が一致していない。不一致の原因として考えられる手続き上の差異を明確にし、T字迷路を用いた一連の意思決定課題の中で衝動性と固執性へのOFC損傷効果を検討した。衝動性への効果に関して、一定基準以上、遅延大報酬を選択することを確認した後、損傷手術を行い、損傷後の同課題のテストを行った。このテストにおいて損傷の効果はなかった。これに引き続き、固執性への効果を検討するために、遅延および報酬と選択走路の左右を逆転させたテストを行った。逆転テストにおいて、OFC損傷群の正答率が統制群より悪かった。よって、OFC損傷は固執性を高めるが、衝動性には影響を与えないことが明らかになった。本内容について国内および国際学会にて発表を行い、論文準備中である。 上記以外の課題として、デグーの個体識別に関わる要因を検討し、視覚刺激が重要な役割を果たしていることを明らかにした。最終年度において、この理論に関して総論の一部に掲載した。この他、デグーの環境モニタリングにおける集団行動の利益に関する研究を行った。これに関して学会発表を行った。
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