研究課題/領域番号 |
23653180
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
松本 敏治 弘前大学, 教育学部, 教授 (50199882)
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キーワード | 自閉症スペクトラム / 方言 / 社会的機能 / つがる弁 |
研究概要 |
平成24年度においては,自閉症の方言使用について次の2つの研究を行った。第一は,理論的検討である。日本LD学会において,本研究をテーマとした自主シンポジウムを行い,関連する研究者とこの現象について提出された諸解釈を吟味検討し,方言の社会的機能説を主たる解釈仮説とする方向性が定まった。この解釈からは,この現象は北東北という地域に限定したものではなく,一定程度方言を使用する地域において普遍的に見られるであろうことが推測された。成果を,弘前大学教育学部紀要に投稿し掲載された。 第二は,先行研究の調査で青森および秋田でみられた「自閉症は方言を喋らない」との評定が,全国的に普遍的な現象であるか否かを確定するため全国の地域で調査を行った。具体的には,次の地域および対象者に対して自閉症スペクトラム,知的障害,地域のこどもの方言使用についてのアンケート調査を行った。対象は,1)国立特別支援教育総合研究所の研修参加者,2)京都,高知,北九州,大分,鹿児島の特別支援教育関係教員である。結果は,すべての調査地域で,自閉症スペクトラムの方言使用は地域の子どもおよび知的障害に比べ少ないとする評定で一致していた。また,高知においては,津軽地域の特別支援学校において実施したのと同様の手続きで,自閉症スペクトラムと非自閉症スペクトラムの方言語彙使用についても調査を実施した。津軽地域で見られたのと同様に両群で方言語彙の使用についても顕著な差が認めれれた。これらの結果からは,この現象が北東北に特異的な現象ではなく,方言使用地域で普遍的に見られることが明らかとなった。 この研究の成果は自閉症の方言不使用という現象が自閉症スペクトラムの社会性の障害を基盤として生じた可能性を示すとともに,方言を指標として自閉症スペクトラムの言語習得過程や周囲のことばかけの影響を検討できる可能性を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,自閉症の方言使用について検討することであった。具体的には1)「ASDは方言をしゃべらない」という印象が生じた原因について理論的に検討すること,2)この現象が北東北以外の地域においても普遍的に認められる現象であるかを調査すること,3)教師とASDの相互交渉時の方言使用について検討をすすめることであった。1)は23年度,2)は24年度,3)25年度に行う予定であった。1)および2)は予定どおり行うことが出来た。理論については22年度に引き続いて本年度も関連する領域の研究者と検討を行い,社会的機能説を解釈理論の柱とすることが明白となり,結果を論文にまとめた。この現象が普遍的現象であるか否かを検討するため国立特別支援教育総合研究所,京都,高知,北九州,大分,鹿児島において調査を実施した。分析をおこなった結果,上述の現象は北東北限定の現象ではなく全国的に普遍的なものであることが確かめれた。結果については,学会において報告予定である。また,同時に教師の話しかけについても同時にアンケート調査を行い,教師のASDへの話しかけとIDへの話しかけには,表現様式に差があるとの証拠が集まりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
前述したように,本研究は「自閉症は方言を話さない」という現象について理論的検討とこの現象の普遍性についての検討してきた。理論的検討において,つぎのような仮説を検討した。1)方言をしゃべっているのだが、発達障害特有の発音や音韻が方言らしく聞こえない(2)方言の音韻や音調の特徴が障害児の情報処理能力を超えている(3)「~んだなし」「~だがや」「~ばい」など方言独特の終助詞を理解できない(4)メディアの影響。この結果,方言の社会的機能とASDの社会性の障害の関連での解釈が現時点では,もっとも説明妥当性が高いと判断している。しかしながら,方言の社会的機能説は,もともと青年期および成人期での方言の使い分けにもとづくデータをもとに提出されたものであり,幼児や児童の方言使用にそのまま適合することには無理がある。 そこでASDの方言不使用という現象が幼児期においても認められるかについて理論的・実証的検討を行う。(1)関連する領域の研究者との理論的検討,(2)定形発達児のおよび自閉症スペクトラム幼児の方言使用について保健師と保育士に対してアンケート調査を行う。 また,社会的機能説は非ASD児童生徒は状況や相手によって方言の使い分けを行うと仮定している。この仮説を検証するため,特別支援学校の児童生徒について調査し状況・相手により方言使用に差がみとめられるか,そしてASDと非ASDの示す特徴を分析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度においては,先行研究において共同で研究報告をしてきた言語聴覚士,前年度の調査において協力をえた特別支援教育関係者,そして言語学とくに方言研究者の参加を得て理論検討および研究計画および分析についての会議・協議を8月および11月に行う。これら研究協力者のうち,1名は鹿児島に在住しており,鹿児島-青森の旅費が必要となる。 また,調査地域への聞き取り調査を行うため,旅費およびメディア記録媒体の費用が必要となる。 特別支援学校での調査においては,学生を調査補助員として雇用する。このため,これら学生への謝金が必要となる。
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