研究課題/領域番号 |
23653184
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
大井 学 金沢大学, 学校教育系, 教授 (70116911)
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キーワード | 自閉症 / 多言語 / 多文化 |
研究概要 |
日中英トリリンガルの家庭で育つ6歳の高機能自閉症スペクトラム障害(HFASD)の男児と家族との会話を分析した。その焦点は母親(第一言語中国語)が男児や家族(第一言語日本語の父親、トリリンガルの妹)と話す際に、日中英3言語を使い分ける、あるいはスイッチする事態の特徴を把握することであった。 3か月のインタバルをおいて2つの会話サンプルが分析され、コードスイッチの7つのタイプが見いだされた。1)同一メッセージの複数言語反復、2)話者間の理解共有、3)言語それぞれに特殊な表現、4)男児の理解の承認、5)もっとも熟達した言語(この場合中国語)選択、6)注意獲得、7)その他(話題変更など)である。1ターン1スイッチ、1ターン同一スイッチ反復、1ターン複数種スイッチの3パタンが見いだされた。 上記を駆使した母親が示した非常にユニークな会話スタイルは、父親が日本語で話す際の母親による補償であった。補償は父親から母親に対しても行われた。補償は、仲介と注意獲得の2つのタイプがあった。仲介は、両親の一方が自身の母語で男児と話す際の困難を、他方の親が自身の母語で介入/補助を行うものである。注意獲得は、一方の親が男児の注意を獲得できない場合に他方の親が補助するもので、同一メッセージが異なる言語で伝えられる。 2つの観察時期を比べると、Time2は父親が3か月前の母親の会話スタイルを取り入れる様子が見られた。Time1では父親が日本語で間接発話や疑問詞質問を多用し、会話が成り立たない時に母親が中国語に特有の選択質問、直接表現、はい・いいえ型質問で仲介した。父親はそれをTime2に日本語で用いた。 補償的発言は多言語HFASDの子どもに特有か?また、子供の理解とコミュニケーションを助けるかを明らかにできれば、異なる言語の組み合わせが自閉症にどのような影響を及ぼすのかを把握することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日中英トリリンガル家庭における多言語会話の実情が仔細に把握でき、今後の研究の展開の手がかりを得た。疑問詞質問が極性質問(中国語では、A-notA-Q,Choice-Q)に置き換えられることでコミュニケーションを促す様子が、多言語環境でも観察でき、母親質問への子どもの応答を検討するうえで重要な手がかりを得た。 モノリンガル母子会話における質問応答関係の検討は中国語(台湾語)について実施でき、現在投稿中である。 しかし、研究代表者が不測の病気となり、主として、英語における母子会話のデータ収集が実施できなかった点、ならびに台湾でのTime2データの分析検討を行えなかったことが課題として残った。25年度に実施できるよう進捗を図るべきところである。
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今後の研究の推進方策 |
主として連合王国、および一部はカナダ、アメリカにおいて、英語を第一言語とする高機能自閉症スペクトラム障害の子どもの母親との会話データを収集する環境を整える。 連合王国ではUniv.Sheffieldの人間コミュニケーション学部付属のクリニックに通うクライアント、カナダおよびアメリカにおいては24年度にすでに接触ずみの現地専門家の紹介を得て研究参加者を募る。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)24年度に引き続き台湾での縦断データTime2の収集と解析をすすめる。このため台湾を1回訪問し、共同研究者と作業する。 2)連合王国を1回訪問しTime1データ収集の環境設定を行い、実施する。 3)3国ごとに会話記録を文字転写し、共通コーディングシステムでコード化する 4)セカンドコーダーは、研究目的を知らない大学院生を割り当てる。このために謝金を支出する。 なお、次年度に使用する予定の研究費は、連合王国での滞在期間の延長にあてる。
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