研究課題/領域番号 |
23653200
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
肥後 功一 島根大学, 教育学部, 教授 (00183575)
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研究分担者 |
岩宮 惠子 島根大学, 教育学部, 教授 (50335543)
三宅 理子 島根大学, 教育学部, 准教授 (20319833)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | きょうだい / 同胞葛藤 / 関係性 / 臨床心理学的査定法 |
研究概要 |
何らかの心理的問題を抱えた子どもの"きょうだい"に対する心理臨床的支援の必要性・重要性は多くの心理臨床家の認識するところである。その一方,臨床心理学領域では,こうした膨大な臨床経験上の事実とは対照的に,これらを実証的にとらえ理論化し検証する研究は少なく,当該事例のセラピーを進める上で,きょうだい関係にどのようにアプローチすることが適切か(あるいは効果的か)を示唆してくれる査定法ーすなわち「きょうだい関係をとらえるための査定法」は見当たらない。本研究は以上のような問題意識に基づき「きょうだい間の対比性と同調性に関する査定法」の開発をめざしており,平成23年度は次の3つの研究を進めた。A.サブカルチャー領域の嗜好に基づく査定法の開発(主に研究分担者/岩宮恵子 担当):思春期の子どもの相談の中で,漫画やドラマあるいはアイドル等の嗜好が当該事例ときょうだいとの間で相違したり一致したりする例を収集し,分析を開始した。サブカルチャー的素材(漫画等)は,そのときどきの流行によって左右されるため,査定法として適切な次元及び検査刺激(図版等)をどう抽出・設定するか,という課題が明らかになった。B.描画や箱庭を用いた査定法の開発(主に研究分担者/三宅理子 担当):相談事例の中から,問題を理解する重要な要因として"きょうだい間の葛藤"が想定される事例を抽出し,その箱庭や描画について分析を進めた。その上で相談事例に加え,きょうだいの描画等を収集するし,対比性と同調性の視点からきょうだい間葛藤の解釈が可能かどうか検討する段階に進む準備が整った。C.質問項目及び臨床観察項目による査定法の開発(主に研究代表者/肥後功一 担当):当初予定していた発達心理学,社会心理学領域に加え臨床心理学領域の文献も加え,当該領域の研究史を整理し「きょうだい関係に関する査定尺度項目・観察項目」の収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は研究の取りかかりの年であり,3つの研究それぞれの目標は概ね達成されている。しかし「査定法の開発」という具体的な目標を個々に見た場合,上述の3つの研究のそれぞれに次のような課題(遅れ)が生じている。研究A:その時々の流行に左右されないサブカルチャー的「次元」の取り出しが,どのような方法によって可能になるのか,についての具体的な検討までに至っていない点。研究B:きょうだい葛藤が重要な要因と想定される事例の抽出は行われたが,実際にきょうだいの描画等を対比することによって,それをどのように実証的に裏づけるかについて,具体的な手法を開発するまでに至っていない点。研究C:多くの文献の中から必要な基幹的文献を幅広く選定するのに時間を要したため,研究史的背景の整理に時間を要しており,具体的な尺度項目・観察項目の数がまだ不十分である点。以上の点に留意しながら平成24年度において鋭意,研究を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように若干の遅れはあるものの,研究の方向性に変更はないため,次年度以降,3つの研究を次のように進めていく予定である。A.サブカルチャー領域の嗜好に基づく査定法の開発(主に研究分担者/岩宮恵子 担当):査定法として適切な次元及び検査刺激(図版等)の具体的な抽出及び設定という課題をクリアするとともに,発達的な視点も加えながら,具体的な査定方法の開発に取り組む。数理的な意味での妥当性ではなく,あくまで事例の臨床的解釈から導かれる妥当性検討というところに本研究の特色があるので,きょうだい間葛藤がテーマとなる具体的な相談事例の収集を継続して行う。B.描画や箱庭を用いた査定法の開発(主に研究分担者/三宅理子 担当):相談事例の中から,問題を理解する重要な要因として"きょうだい間の葛藤"が想定される事例の"きょうだい"について描画等を収集し,対比性と同調性の視点からきょうだい間葛藤の解釈が可能かどうか検討する段階に進む。研究分担者(三宅)が独自の研究領域としている「水のある風景」描画の有効性についても併せて実証的に取り組んでいく。C.質問項目及び臨床観察項目による査定法の開発(主に研究代表者/肥後功一 担当):文献研究からの「きょうだい関係に関する査定尺度項目・観察項目」をさらに整理し,保育・教育関係者の協力を得て,実際の教育・保育現場あるいは家庭において使用可能な「尺度項目・観察項目」を精選する段階に進む。以上の3研究を総合する形で,目的とする査定法の試作をめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度に繰越研究費が生じた状況は次のとおりである。・肥後功一(研究代表者)及び三宅理子(研究分担者)の繰越について:必要な消耗品の価格が想定より安かったため若干の繰越が生じた。・岩宮恵子(研究分担者)について:当該年度に予定していた資料収集のための旅費が不足したため研究代表者の経費を急遽振替えたが,資料提供先の急な事情により調査実施が困難となり,旅費の繰越が生じた。この繰越分による資料収集は,次年度に予定どおり実施予定である。以上の繰越は,それぞれ次年度の物品費(文献購入及び消耗品購入)及び旅費に加算し,上述の計画に従って使用する。
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