研究課題/領域番号 |
23653200
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
肥後 功一 島根大学, その他部局等, 理事 (00183575)
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研究分担者 |
岩宮 惠子 島根大学, 教育学部, 教授 (50335543)
三宅 理子 島根大学, 教育学部, 准教授 (20319833)
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キーワード | きょうだい / 同胞葛藤 / 関係性 / 臨床心理学的査定法 |
研究概要 |
従来,主として2者関係ーとりわけ親子関係ーを前提として理論的にも実践的にも展開してきた心理臨床相談において,きょうだい関係という「ななめの関係」を考慮に入れることは重要な意味をもっており,不登校,障がい児,DVなど,さまざまな臨床場面においてその重要性が経験的には知られている。一方,これらを実証的に検討・検証する際に欠かせない「きょうだい関係をとらえる指標」についての研究は非常に少ない。 本研究は「きょうだい間に仮定される心理的バランス」に着目し,その査定法を新たに構築するべく取組みを続けてきた。複雑な関係性を指標化して評定(可能な範囲で数値化)する試みなので,初期モデルとしては,2人同性きょうだい間の「対比性と同調性」という単純化した仮定から出発している。平成24年度においては,次の3つの研究を組織的に進め,それぞれに一定の成果が得られた。 A)サブカルチャー領域の嗜好に基づく査定法の開発(主に研究分担者/岩宮恵子担当)多くの面接相談事例を通じ,漫画や音楽などで,きょうだい間での嗜好の違いや同調がみられる事例の収集を行った。サブカルチャー領域以外(ex.生活習慣や学習における志向性など)にも注目した方が有益であることが示唆された。 B)描画や箱庭を用いた査定法の開発(主に研究分担者/三宅理子担当)描画や箱庭の記録等から,きょうだい間の対比性や同調性の指標が得られるかどうかについて検討を重ねた。しかしながら,査定法に活かせるような指標を見出すことは非常に困難で,またそのための同一課題をきょうだいに同時に課す方法も査定法としては実施が難しいとの結論に至った。 C)文献からの指標収集に加えて,これまでに開発された親子関係を中心とする本邦の査定法を精査し,きょうだいというななめの関係を加えた親子関係査定の可能性について検討を行った。保育所における予備調査が終了した段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3つの研究のうちAにおいては,多くの知見が得られる事例が豊富に収集されており,概ね順調である。ただし指標を得るべき領域について,当初予定していた「サブカルチャー」を超えて,より広範に捉えた方が有益であるとの分析結果が得られたため,当初よりも指標の絞り込みが遅れている。 またBは,描画法・箱庭などの制作過程や作品から,きょうだい間で比較可能な指標を得ていく試みであるが,2年間,膨大な分析を行ったにもかかわらず,有効な指標が得られなかった。もちろん,研究的な対比を目的として,きょうだいの双方に同じテーマの描画を求めた結果を比較したり,異なる時期に制作を求めた箱庭を比較したりすることによって,きょうだい関係のダイナミクスが理解されたり,あるいは同胞葛藤のテーマを見出すことができたり,といった経験は少なからずあり,こうした手法の有効性は十分にうかがえた。しかしながら一方,指標が絞り込めない以上,描画法・箱庭などを(簡略化した方法にせよ),きょうだいに同じように適用していこうとする査定法は,研究的には取り組めても,現実的な臨床場面での適用は非常に困難であると考えられた。この点が「遅れている」と評価せざるを得ない1つの背景となっている。 Cについては,概ね予定どおりに進捗しているが,研究代表者が平成24年度から大学理事に就任したため,当初のように保育現場への観察・データ収集に向かうことが困難となり,試作した指標の有効性を検証するためのデータ集積が不十分であり,その点で計画に遅れを生じている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は本研究の最終年度であるので,きょうだいのバランスを評価するための臨床指標をとりまとめ,査定法の試作品を完成させたい。研究分担者が1名転出したため,25年度は代表者(肥後)及び分担者1名(岩宮)の2名で研究を実施することとなる(既に届出,承認済み)。 研究Bについては上述のように,たとえ有効な指標や査定法が開発されても,実際の面接・査定場面における実施上の課題が大きすぎるため,その知見を活かしつつ研究Aの中に包括して取扱い,箱庭や描画による査定を含む広く心理臨床面接場面で有効な指標を開発していくこととする。 研究Cについては,文献及び観察場面から収集された指標の有効性を,乳幼児観察によって検証していくことが課題となる。可能な限り妥当性や信頼性の検討にも取り組むべく,事例数を増やすことを当面の目標とする。 以上,研究Bを包括した研究A,及び研究Cから得られた指標をとりまとめ,臨床場面で活用可能な同胞葛藤の査定法を試作する。
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額(\41,515)のうち,\41,320は研究Aにおける旅費において生じた。研究Aでは主な事例収集・検討を東京及び京都において行っているが,本務の都合により実施できない出張が1回生じたためである。この分のデータ収集は平成25年度において補填する計画である。なお研究Bにおいて生じた未使用額(\195)は研究分担者の転出に伴い,研究A分担者の平成25年度分使用に合わせて執行する計画である。
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