心理臨床相談の文脈において「きょうだい関係」の重要性について経験的に知られてはいたが,これを実証的に検討・検証するための指標は開発されていない。 本研究は「きょうだい間に仮定される心理的バランス」に注目し,その査定法を新たに開発することを目標に,次のA~Cの3つの研究を組織的に進めた。その際,個人内指標ではなく,「関係性」を測定する指標の開発をめざした。初期モデルとして同性2人のきょうだい関係に単純化した形で指標開発に取り組んだ。 A)サブカルチャー領域を中心とした事例データ収集に基づく指標の開発:多くの面接相談事例を通じ,漫画,音楽,アイドルグループ等に対するきょうだい間での嗜好の違いや同調がみられることに着目し,事例の収集・分類・分析を試みた。結果的には,より広い生活習慣や学習における志向性を取り込んで指標化した方が,臨床上,有益であることが明らかになった。B)描画や箱庭を用いた指標の開発:描画や箱庭の記録等から,きょうだい間の葛藤などの関係性が読み取れることが多くあることから,何らかの指標が可能と考えた。しかし投影法指標は各枠組み内で固有の意味を付与されているため,その切り取りは極めて困難であることがわかった。最終年度に研究分担者が転出したため,研究Bは研究A(ケース研究)に含めて考察することとした。C)質問紙や臨床観察のための指標の開発:きょうだい間葛藤を扱った文献及び保育所での観察等を通して,客観的測度を得ることを試みた。 以上3つの取組を通じ,きょうだい関係に関する臨床的に有意味な指標を列挙することができた。しかしいずれも一定の状況・関係性・臨床構造の中でしか意味をもたないため,その枠組みの構築を試みた。たとえば「対比性」「同調性」「操作性」「支配性」「両義性」「依存性」などである。これらを全体的に構造化された臨床仮説の中に位置づける作業が課題として残った。
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