研究課題/領域番号 |
23653221
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横澤 一彦 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20311649)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 視触覚相互作用 / 統合的認知 / ラバーハンド錯覚 / 高次視覚 |
研究概要 |
視触覚相互作用としてラバーハンド錯覚を取り上げ、2種類の実験を実施した。まず、これまでのラバーハンド錯覚に関する研究が、筆で刺激を与えるような狭義の触覚(皮膚表面の何らかの機械的変形によって生じる感覚)にほぼ限られていたことから、広義の触覚(いわゆる五感の1つとして、狭義の触覚だけでなく、痛覚、温度覚などを含む感覚)でのラバーハンド錯覚の生起を確認した。ラバーハンド錯覚が生起した状態で、ゴム状の手に氷や熱湯を近づけると、実際の手には常温の触覚刺激を与えたとしても、温度感覚の変化が感じられるかどうかを調べた。その結果、温度感覚でもラバーハンド錯覚が生じたので、マルチモーダルな結合錯誤による誤定位が生じており、狭義の触覚に限定された現象ではないことが明らかになった。この成果は、Psychonomic Societyや日本心理学会で発表した。 次に、視触覚相互作用による誤定位現象としてのラバーハンド錯覚がラバーハンド、すなわちゴムの手を用いなくても生起する可能性を確認した。仮想的な手画像と実験参加者の実物の手に同時に触覚刺激を与えるために、3次元感触インターフェイスを用いた。触覚フィードバックを有する3次元インターフェイスにより、実験参加者が自分の手を触る動作に同期して、仮想的な手画像上に、3次元的なポインタを同期させて呈示することができた。この方法によれば、従来は実験者、すなわち他者が与えてきた触覚刺激を能動的に実験参加者自身が与えることができる。その結果、効果量は減弱すすものの、能動的な触覚情報によって、ラバーハンド錯覚が生起することを確認した。この成果は、Vision Sciences Societyで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視触覚相互作用としてラバーハンド錯覚を取り上げ、おおむね予定通りの実験を実施し、ラバーハンド錯覚の頑健性に関する仮説を証明することができた。特に、温度感覚を利用して、マルチモーダルな結合錯誤による誤定位が生じることを明らかにできたのは、この錯覚が狭義の触覚に限定された現象ではなく、自分の腕としてマルチモーダルな存在であることを示したことは、重要な成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
23年度に得られた研究成果を学術論文化するとともに、ラバーハンド錯覚の応用として、幽体離脱の研究に取り組む。Science誌に掲載されたEhrsson (2007)の幽体離脱研究は、ヘッドマウントディスプレイを利用することにより、従来のラバーハンド錯覚実験のような視覚情報呈示の制約をはずすことができ、腕以外の部位の触覚刺激により、結果的に幽体離脱体験を実現する画期的な研究であった。視触覚相互作用による自分自身のボディイメージの誤定位現象として、ラバーハンド錯覚を全身に拡張した現象と位置づけ、実験研究に取り組む予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
幽体離脱実験に展開するために、民生用のヘッドマウントディスプレイやビデオカメラなどの3次元の映像呈示装置などを組み合わせた実験装置群を早急に整える。実験参加者に長時間に及ぶ拘束が伴う場合には、適切な謝金を支払う予定である。 旅費として、国際会議発表や国内会議発表を行い、積極的に学術論文として研究成果をまとめるための校閲や投稿料などに使用する。
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