研究課題/領域番号 |
23653227
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中島 祥好 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (90127267)
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研究分担者 |
上田 和夫 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 准教授 (80254316)
竹市 博臣 独立行政法人理化学研究所, その他部局等, 専任研究員 (60242020)
富松 江梨佳 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 学術研究員 (20584668)
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キーワード | 時間的規則性 / 事象関連電位 / 相関行列 / リズム知覚 |
研究概要 |
視覚において300 ms以内の充実時間,空虚時間を呈示することをランダムドット図形を用いて実現し,短い時間における充実時間の過大評価が,視覚においても生ずることを確認した。イギリス英語の音素について,臨界帯域フィルターを用いた音響分析を続けている。鳴音性 sonority と呼ばれる音の性質について,英語音韻論と関連づけて考察することができた。また,日本語と英語とのリズムの違いについて,音声信号の分析によって解明する手がかりを得た。W. Ellermeier ダルムシュタット工科大学教授との共同研究により,日本語音声とドイツ語音声の聴取について,情報理論的に考察するための手法を確立した。さらに,日本語単音節の雑音駆動音声を合成し,特定の帯域を除去することにより,音声の伝達情報量がどのように変化するのかを調べ,有声子音と無声子音との区別や,子音の特徴の一部(摩擦音,破擦音など)が,音声の周波数帯域間の時間的前後関係によって決定されることを明らかにした。また,合唱音楽を臨界帯域フィルターに通過させ,各帯域のパワー変化を因子分析にかけ,音声の分析結果と比較したところ,通常のテキストのついた合唱音楽では,音声とよく似た因子が抽出されたが,そうでない合唱音楽では,明確な因子が抽出されなかった。リズム知覚に関する,脳波,脳磁図のデータの解析を続け,同じ刺激パターンに対しても,それが等間隔の時間パターンであると知覚されるか否かによって,脳活動の様子が異なることを確認した。このような違いは,まだ時間間隔についての情報が与えられていない刺激呈示を開始した直後から,徐々に増してゆくことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 時間知覚について,隣接する時間間隔の異同判断に関与する脳内部位を脳波,脳磁図の観測結果を比較することによって,右前頭部に特定することができた。(2) ランダムドット図形を用いることによって300 ms以下の充実時間と空虚時間の呈示を可能とした。聴覚刺激を用いた場合と同様に,充実時間が空虚時間に対して過大評価されることを確かめた。これによって,視覚においてリズムを形成する比較的短時間の時間間隔について考察できる結果を得た。(2) イギリス英語の音素について,臨界帯域フィルターを用いた音響分析を行い,1000 Hz 付近の周波数成分に関係の深い因子が存在し,音節の核を形成することを確認した。これをきっかけに,言語学において鳴音声 sonority と呼ばれる音の性質を,知覚心理学の手続きを通して解明してゆく見通しを得た。(3) 日本語単音節の雑音駆動音声を合成し,特定の帯域を除去することにより,音声の伝達情報量がどのように変化するのかを調べ,有声子音と無声子音との区別や,子音の特徴の一部(摩擦音,破擦音など)が,音声の周波数帯域間の時間的前後関係によって決定されることを明らかにした。(4) リズム知覚判断を行う際の脳内情報処理を評価するため,異なる反応間,条件間で,刺激聴取時の脳波・脳磁図データのBhattacharyya距離の時系列を求め,知覚判断の脳内情報処理が刺激提示開始とともに始まることを示唆する結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
今後は共同研究を推進するため,研究者相互の訪問をこれまで以上に活発化する。ラヴァル大学(カナダ)やダルムシュタット工科大学(ドイツ)など海外の研究者との連携を強化し,特に言語におけるリズムの役割について言語間の共通性および非共通性を探っていく。これまでに,アメリカ英語,中国(広東)語,イギリス英語,フランス語,ドイツ語,日本語,中国(北京)語,スペイン語の8言語・方言について音声言語の音響分析を行った。臨界帯域フィルター適用後,相関係数行列を計算し,相関係数行列間のユークリッド距離を求め,多次元尺度構成法の適用を試みた。その結果,男声・女声の違いに対応する次元および言語の特徴を表す次元の抽出が可能であることが示された。相関係数行列の縮約の影響も確認した。今後は,前述のパターンが示されるために必要な次元数の決定を目指す。また,同じ8言語・方言について,臨界帯域フィルター適用後の時系列に因子分析・バリマックス回転を施し,因子得点の自己相関関数の形状をもとに言語を特徴づけることを目指す。言語によって,特有の自己相関パターンが見られた場合には,さらに,脳波データに基づいた規則性および不規則性のパターンの識別と,対応関係が見られるかどうかを検討する。調音器官の動作タイミングと音声のパワー変化から抽出した因子との関係について,相関分析が可能かどうかを検討する。また,時間的規則性のある刺激をしばらく呈示し,充分順応させた後に規則性の崩れた刺激を一回だけ呈示することにより,ミスマッチ陰性電位を観測する。このことにより,不規則性の検出に関わる脳の部位が,音声言語刺激と非言語刺激とで異なるかどうかを調べる。視覚呈示された短い時間間隔の知覚については,今後さらにデータを追加し,研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き共同研究の推進のため,旅費に重点を置く。成果の発表および情報収集のために参加した国内および国際学会において,その機会を利用し打ち合わせを行うなどして,旅費の使用額を抑えることができたため,繰越額が生じた。次年度以降,共同研究をより一層推進するために,研究打ち合わせを綿密に行う必要がある。繰越額は,この打ち合わせための旅費として使用する。研究組織構成員のうち,竹市のみが遠隔地で活動しているため,研究打ち合わせのための国内旅費として,竹市が30万円程度使用することを見込んでいる。さらに,得られた成果を国内学会において発表するため,国内旅費,学会参加費等に使用する予定である。その他,研究の推進に必要な消耗品費,謝金などとして使用する。
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