研究課題/領域番号 |
23653229
|
研究機関 | 埼玉工業大学 |
研究代表者 |
大塚 聡子 埼玉工業大学, 人間社会学部, 准教授 (90348293)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 視聴覚統合 / 閾下知覚 / 閾下聴覚刺激 / 空間知覚 |
研究概要 |
23年度には、本研究課題において最重要となる(1)無意識的な聴覚刺激について、短時間で可能かつ信頼性が高い提示方法を探索的に検討し、その概要を確立した。続いてその手法を使用し、(2)対象の2次元的空間特性における無意識レベルでの視聴覚相互作用を示唆する結果を累積している。無意識的な聴覚刺激の提示手法を確立させるという予備的作業については、国外の研究グループが最近開発した手法(刺激をノイズマスクに埋め込む方法)に関する情報を得たため、申請者が開発していた手法(注意をコントロールする手法)と合わせて、信頼性と本研究課題における適合性とを検討した。結果として、言語刺激を用いる場合には両者ともあるていどの信頼性があり、また、マスク法は簡便、注意コントロール法は調整が容易と、それぞれの利点があることがわかった。そのため本研究課題では基本的に両手法を組み合わせて使用し、実験課題に応じて適宜個別の手法を採ることとした。また、検討を進めたところ、ビープ音など単純な音響刺激の音源定位のためには、刺激出現可能位置の明示的提示が必要である可能性も示唆された。この点を克服する手法を探索し、現在のところ視覚的に位置を提示する手法が有望と考えられる結果を得ている。以上の手法の妥当性を検討する目的を兼ね、(2)視聴覚相互作用について、対象刺激の2次元的空間位置について、無意識的な聴覚刺激が視覚ターゲットへの反応に及ぼす影響を検討する実験を開始し、加えて無意識的な視覚刺激が聴覚ターゲットへの反応に及ぼす影響を検討する実験も平行して開始した。現在のところ、視覚的あるいは聴覚的に無意識的に提示された両方の場合について、後続する他様相の意識的な刺激に対する課題に寄与することを示唆する結果を得ている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画は全般的に予定通りに進行している。23年度には「無意識的な聴覚刺激提示手法の確立」の作業について、当初予定していたよりも長い時間を要した。これは、フランスCNRSにおける言語研究グループにより本研究課題に強く関連する実験手法が開発・発展されたとの情報を得たため、その手法についての検討を加えたからである。しかしながら、この作業により研究課題を遂行するためのより信頼性の高い手法を獲得することができ、有益であったと考えている。また上記内容に関連して、当初は23年度後半と24年度前半に継時的に実施することを予定していた2つの研究課題項目を平行して開始することとした。後続して(24年度前半に)おこなう予定だった実験を前倒ししたのは、この実験が前述の刺激提示手法を含むからである。開発した手法の妥当性を確認することは研究課題の遂行において重要であり、実証的な確認を優先するためにこの課題を先送りして開始することとした。この課題項目の実施順序の調整のため、23年度に完了する予定であった課題「視覚から聴覚への影響」について、完了させ報告するには至らなかった。しかしながら24年度に実施予定だった課題「聴覚から視覚への影響」をすでに開始しているので、研究課題の全体的な進行が遅れているとはいえない。また、23年度には大学院生の協力を得て、25年度に予定している3次元知覚実験にて使用することとなる刺激表示機器を設営することができた。これは今後の研究進行についてメリットとなる。これらの内容を総合すると、研究課題の全般的進行についてはほぼ予定通りのペースで進行していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も当初の研究計画の内容どおりに進行していく予定である。23年度には予定していた研究課題の実施順序を若干変更したが、これにより研究内容を変更する必要性はない。23年度は複数研究を並行して実施しており、それらの研究の完了ならびに総括の作業が必要となる。24年度はまずそれらの課題、つまり対象刺激の2次元的空間位置に関する研究を完了させ、その成果を報告する。続いて、刺激特性を2次元空間における運動とし、同様に無意識的な様相間相互作用の有無について検討する。つまり、先行する無意識的な視覚または聴覚刺激が、後続する意識的な他様相の刺激の処理に知覚的行動的な影響をもたらすかどうかを検討する。この影響の有無については、現在のところいずれかを理論的に予測させる明確な基盤がほとんどない。仮に現在の手法により肯定的な結果が得られなかった場合には、同時的な閾下加算法など、他の手法を用いての検討も加え、輻輳的な結果に基づき慎重に議論・考察を進める。この考察がスムーズに進めば、25年度は、刺激特性を3次元空間における運動方向特性とし、同様の検討をおこなうこととする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
24年度の研究費予算は、おもに、研究成果報告費、論文投稿関連費、および人件費としての執行を予定している。実験装置については主要部分の設営が完了しているので、大がかりな物品は必要としない。24年度の研究成果報告については、1件の国際学会(アジア視覚会議、2012年7月、韓国ソウル開催、審査あり・通過ずみ)、2件の国内学会(日本基礎心理学会大会、2012年11月、九州大学。日本視覚学会冬季大会、2013年1月、工学院大学(予定)。いずれも発表募集開始前)の計3件における学会発表を予定している。そのための費用として研究費を使用したい。また、無意識的聴覚刺激提示に関する研究成果を誌上報告するための論文投稿関連費用が必要である。さらに、心理学実験を通してデータ収集を行うため、広く実験協力者・被験者を募る必要がある。研究参加者を確保するために、研究費を使用する予定である。
|