25年度は、おもに3次元空間の静的・動的ターゲットについて、無意識レベルでの視聴覚相互作用が生起するかどうか検討した。立体鏡による両眼視差提示(視覚)と両耳同時聴による強度変化(聴覚)とを用いた実証を試みたが、相互作用を示す有意な結果を示すことができなかった。先行年度の成果も考え合わせ、この結果は仮想的な(実空間ではない)3次元空間での現象生起の難しさを示すと推察している。関連する主要な要因に、視聴覚相互作用が生じるには両様相刺激の同一性が認識される必要性がある。本研究課題のように空間要因を検討する場合には、空間的定位が同一である必要となる可能性が高い。上記の両眼視差と聴覚強度変化は仮想的な3次元提示でしかないが、これらの手法による3次元空間定位は複数の解をもつ不良設定問題であり、知覚情報として曖昧である。刺激強度が弱い場合には、両刺激が同時提示されても融合が困難で、同一定位を成立させるのが困難と考えられる。そのために実証が困難であった可能性がある。 研究期間に得た知見をまとめると、本研究課題では無意識レベルでの視聴覚相互作用を限定的に確認し、実証方法のさらなる追究が必要である。2次元的・静的刺激については、無意識的視覚刺激による聴覚の修飾効果が認められた。一方、聴覚刺激による視覚の修飾効果は相対的に小さく、有意傾向であった。この非対称性については、視聴覚の空間解像度特性の違いに依存する可能性が考えられる。2次元的・動的刺激については、相互作用は明確ではなく、結果の個人差が大きい。この結果も同一性認識の要因に関連すると考えられる。無意識的レベルの信号は刺激強度が小さく、閾上や意識的知覚に比較するとより頑健な同一性の認識成立が必要だと考えられる。
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