研究課題/領域番号 |
23653232
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
犬飼 朋恵 中京大学, 心理学部, 助教 (10531684)
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研究分担者 |
河原 純一郎 独立行政法人産業技術総合研究所, ヒューマンライフテクノロジー研究部門, 主任研究員 (30322241)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 視覚的注意 / 注意の制御機能 / 月経周期 / ホルモン |
研究概要 |
本研究では,月経周期に伴うホルモンバランスの変化が視覚的注意の機能に及ぼす影響を調べ,そのメカニズムの解明を目的として実験を実施した。本研究のポイントは,同一の実験協力者に対して月経周期の一定期間にわたって視覚的注意の機能を測定することである。そのため初年度では(1)視覚的注意の基本的な特性の測定,(2)月経周期の把握方法の検証,そして(3)月経周期に伴う視覚的注意機能の変化を検出可能な課題の選定,の3つの側面を中心に行った。(1)では,課題とは関係のない対象に注意が逸脱することによって課題の遂行が困難になる注意の捕捉現象と試行開始直後に出現する標的を見逃してしまう注意の目覚め現象の生起メカニズムに共通性があることを明らかにした。実験では,注意の目覚めの程度によって,注意の捕捉現象の生起が異なっており,このことからこれら2つの現象が共通の注意資源により生じることと,視覚的注意は妨害刺激の提示によって強制的に"目覚め"させられることが明らかになった。これにより視覚的注意と月経周期の関係についてさらに多面的な検証が可能になった。(2)の月経周期の把握については,2段階の測定が必要であることがわかった。月経周期の把握は,2周期にわたって基礎体温を計測することにより試みた。その体温の周期から3周期目の排卵日を予測し,予測日の前後5日の間を実験実施期間とした。しかし,月経周期は身体的精神的影響を受けやすく,その期間に排卵日が納まることが難しいことがわかった。(3)では,(2)と連動して視覚的注意の空間的及び時間的な捕捉現象と,内因性注意の特性に関する課題について数種類の課題を実施し選定を行った。正確な月経周期の変化の把握方法の確立が不可欠ではあるが,種類を何点かまでに絞ることができた。また,複数名に対して同時かつ連続的な実験を行う際のノウハウと環境の構築ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
視覚的注意の基本的特性の検討と課題の選定については,交付申請書に記載した予定の通りに進んでいる。月経周期の把握方法の確立については,正確さと客観性を保証するためにその把握方法を1つから2つに増やすため,次年度に持ち越しとされた。初年度では,実験協力者の選定段階において,月経周期が安定した者に限定した。2周期にわたる基礎体温の計測を行い,周期が安定していることを確かめた上で,第3周期における排卵日の予測を試みた。予測の誤差を考慮し,10日間にわたる実験実施日を設けたが,その期間内にすら排卵日が該当しないケースが何名かで認められた。交付申請書に記載した先行研究には基礎体温の計測結果に基づいて排卵日を予測したものもあったが,同一の協力者を継続的に測定するという本研究でのアプローチの独自性を考慮すると基礎体温だけに基づいてホルモンバランスの変化を予測することは難しいと判断した。そのため,基礎体温の計測に加え唾液の成分からホルモンバランスの変化の測定を行うことにした。これにはColzato, Pratt, and Hommel (2011)が報告している方法を採用した。この方法では唾液に含まれるエストラジオールとプロゲステロンの分泌量を測定することにより,月経周期の経過に伴うホルモンバランスの変化を特定することができる。このように,月経周期の把握方法の問題への対処により若干の予定変更を余儀なくされた。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は,多数の実験協力者に対して選定された認知課題による実験を行う。研究代表者と共同研究者に所属機関の変更が生じたため,24年度の研究開始に若干の遅れが予想される。しかし,研究の連携の側面では効率化が図れたことから,ほぼ計画通りの遂行が可能であると思われる。ただし,若干の変更が生じており,これらについての対応を行う。月経周期の把握のために基礎体温の測定に加えて唾液の成分の分析を行うことにした。この分析に伴う費用の関係で,対象とする月経周期を1周期に限定することとする。ただし,周期の把握の客観性の確保と精度の向上が見込まれるため,研究成果としてはより有意義なものになると考えられる。数名に対する月経周期の把握方法の予備的検討と課題の最終選定を行った上で,本検討に移行する。また,視覚的注意の基本特性の検討については,より広範に検討を継続して行っていく。具体的には,注意の定位に及ぼす注意制御機能のメカニズムやその男女差,グルーピングに及ぼす注意の影響に焦点を当て検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
月経周期の変化を計測するために基礎体温計を予定される実験参加者の人数分と予備分を購入する(計100,000円)。唾液成分の分析は,エストラジオールとプロゲステロンの2成分を同一参加者に3回行う予定であり,それぞれ1検体につき4,600円要する。また,この分析は米国の企業に依頼するため,海外への輸送量が必要になる。分析と輸送量を含めて計約800,000円の費用が必要となる。実験参加者及び実験補助者の謝金を研究代表者と研究分担者の所属機関の規定に応じた時給から算出された金額を確保する(計800時間,約600,000円)。これらの費用は,研究代表者が管理する。共同研究者との打合せ(名古屋,約5回,計約50,000円)及び研究成果を発表するために参加する学術会議への旅費(ミネアポリス,米国4日間及び東京,3日間,計約350,000円)を計上する。
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