本年度は、江戸時代の土木工事、農業技術改良、出版、育児思想など、江戸時代の「自然」観を探るための史資料の蒐集とその整理・分類を中心的に行った。 本研究が取り上げる対象は「型の教育」であり、それは一定の身体的動作の模倣とそのくりかえしによる芸能的ないし職業的な技の体得と精神的鍛錬である。従って、本研究の目的を改めて言い直せば、身体という人間の内なる「自然」に対する働きかけに重点を置く「型の教育」と、「知識」(遍ねく伝達可能なように客観化され、かつ記号化された認識内容)の獲得とその操作や活用に重点を置く教育との比較対象を行い、後者の方向に益々傾斜しつつある現代社会の教育において、前者がどのような可能性を持ちうるのかを歴史的に検討するための史資料を蒐集・整理することであった。しかし、この身体という「内なる自然」に対する働きかけの特質は、同時に、「外なる自然」、すなわち我々を取り巻く環境としての自然に対する働きかけのありようと統一的に把握するのでなければ、的確な理解には到り得ないということが、昨年度までの研究を通じて次第に痛感されるようになってきた。 そのため、今年度の研究においては、現代社会(=知識基盤社会、消費社会)へ向けて時代を繰り下がって資料の蒐集と分析を図るのではなく、本研究の出発点であった江戸時代に改めて立ち戻り、その「自然」観を探るための史資料の蒐集・整理を行うこととした。江戸時代は、地震、津波、火山噴火、冷害、疫病などの自然災害が相次ぐとともに、前期には自然開発が大規模に行われ、中期以降は農業技術の改良が進み、その普及を出版事業が支えるなど、「自然」と人間との関わりが多様に展開された時代だからである。 本研究の最終年度の研究としては、最終到達目標に到っていないが、本研究の最も土台となる史資料を、新たな視点から蒐集・整理することができた。
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