研究課題/領域番号 |
23653242
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
夏目 達也 名古屋大学, 高等教育研究センター, 教授 (10281859)
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研究分担者 |
加藤 かおり 新潟大学, 教育学生支援機構, 准教授 (80323997)
近田 政博 名古屋大学, 高等教育研究センター, 准教授 (80281062)
中井 俊樹 名古屋大学, 高等教育研究センター, 准教授 (30303598)
齋藤 芳子 名古屋大学, 高等教育研究センター, 助教 (90344077)
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キーワード | 高等教育 / 学位制度 / 能力認定 / 従前学習認定 / コンピテンシー / 経験学習 / 経験認定学位 |
研究概要 |
本研究の目的は、「社会経験認定学位制度」の具体的な内容およびその運用実態を解明することである。この制度の主な内容は、各種の社会経験を通じて習得した知識・技能等を評価すること、その内容と水準が学位授与に必要な基準に達していると判断される場合には修学期間の一部または全部を免除することである。現在、ヨーロッパ諸国での採用・実施状況は多様であるが、EU全体としてはこれを促進する方向で政策が進められている。同制度は、日本の高等教育ではごく一部で採用されているに過ぎないが、以下の点で重要性をもつと考えられる。 第1に、学位授与の際の評価対象が機関在籍・修学期間の長さではなく、知識・技能の内容と水準であるため、学位授与を希望する学習者には、一定水準の学習成果が求められること、これにより学習者の学習意欲を高める契機になり得ることである。第2に、経済的・時間的条件など学習の制約条件を抱える社会人に、学位取得の可能性を増大させること、これにより成人に学習意欲を喚起することができることである。 本年度は前年の調査結果をふまえて、以下の項目について、イギリス、フランス、オランダについて調査し比較を行った。 1)社会経験認定学位制度の意義の解明:3カ国とも対象者を社会人に限定しており一般学生は対象外であること、経済的理由等により高等教育機会を得られなかった者に高等教育学位取得の道を開いていること、それを通じて彼らの就業機会増大や勤務条件改善等の可能性を高めていること、社会的公正さの担保など社会政策的意義をもつこと等を明らかにした。 2)社会経験認定学位制度の利用促進のための活動の調査:3カ国とも、政府が生涯教育機関や雇用安定機関等を通じて制度の広報活動を行い、該当者に対して利用を呼びかけていること、各高等教育機関に対して補助金交付を通じて制度の実施・利用者の増加を促していること等明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初掲げた目的のうち、以下の2点について、上記「研究実績の概要」に記したように、予定通り作業を行い、期待した成果をあげることができた。①諸外国の先行研究を整理し、社会経験認定学位制度の概要・論点を明らかにする。②イギリス、フランス、スウェーデン、オランダの4カ国の主要大学に赴いて、教育担当副学長等に対して、聞き取り調査および資料収集を行う。3か国では、いずれも政府が社会経験認定学位制度に積極的に取り組んでおり、高等教育機関にもある程度の普及が見られること、EU諸国内では実施率が高い国として評価されていることから、調査対象とした。 当初スウェーデンも調査対象国としたが、これについてはまだ調査が進んでいない。事前学習用の資料を十分に得られなかったこと、これは3国調査に研究費をほぼ充当し余裕がなくなったこと等の事情による。スウェーデンの扱いについての検討は今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題は以下のとおりである。1)イギリス、フランスについて補足的な調査を行う。調査にあたっては、現地で収集した資料のほか、メール等によるインタビューを行うとともに、インターネットを通じて各種データ等の資料を収集しする。フランスにおいて社会経験学位制度の実施・普及に実績を上げている大学の関係者を招聘して、その制度の概要や大学教育に与える影響について講演を行う。これにより、研究会メンバーにとどまらず、同制度に対する日本の大学関係者の間でも理解が深められるように努める。 2)日本国内で類似した制度を採用・実施している機関(大学評価・学位授与機構等)について、同機関における学位認定・授与の状況、学習成果の設定および評価方法、社会経験認定学位制度の導入可能性について聴き取り調査を行う。 3)大学での学生の学習成果を評価する学力検定制度について、その実施状況・各方面への影響等について調査を行う(経済学検定、経営学検定、心理学検定等)。これを通じて大学外部機関による学力検定制度が大学教育の質向上や学位制度の改善に与える影響とその意義について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
「本研究課題の今後の推進方策」に示したように、次年度においては、 以下のような内容の研究を行う。1)イギリス、フランスについて補足的な調査を行う。2)大学評価・学位授与機構等に対して、同機関における学位認定・授与の状況等について聞き取り調査を行う。3)大学での学生の学習成果を評価する学力検定制度について、その実施状況・各方面への影響等について調査を行う。 1)については、外国人研究者の招聘のために経費を支出する。2)と3)については、聞き取り調査のための旅費、および聴き取り内容のテープ起こし・フィードバックのために経費を支出する。さらに、3年間の研究成果をまとめて、最終成果報告書を作成することとし、そのための経費を支出する。
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