研究課題/領域番号 |
23653252
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研究機関 | 共立女子大学 |
研究代表者 |
西村 史子 共立女子大学, 国際学部, 准教授 (10316846)
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キーワード | ホームスクーリング / バーチャルスクール / サイバースクール / チャータースクール / インド / RTE法 |
研究概要 |
本年度は、前年度に引き続き、アメリカ合衆国のホームスクーリングの動向を、チャータースクールとバーチャル/サイバースクールの相互乗り入れの状況に焦点を当てて分析を継続した。PC購入費およびインターネット接続料、ネット教材やカリキュラムが公費負担になるのと引き換えに、自費負担のホームスクーリングから、サイバーチャータースクールに切り替えるといった志向性が高まり、そのため居住学区や州の予測しえない支出が発生する事態となって、教育行政に混乱が生じていることを確認した。このことは、義務教育制度において就学型と非就学型の教育選択の自由を保障した場合、現状のシステムでは長期的な計画に基づく安定した公教育財政の見通しが立たない危険性を示唆している。さらに、サイバーチャータースクールを媒介にしてホームスクーリングの教育内容や方法の規格化、公教育への包摂化が進んでいる現状が明らかとなった。 以上に加え、インドの現状を概観した。先行研究の検討してきた広範囲に確認されるアンフォーマルエデュケーションは就学型義務教育の代替であり、ホームスクーリングの消極的維持という実態として捉えられる。第二次世界大戦直後に義務就学を憲法で規定しながら、就学率の向上には州間格差、地域格差、男女格差があって、上級学校への進学は義務教育学校卒業の他、州や国が実施する修了資格試験ないし学力認定試験の合格により可能となっていた。とはいえ、受験料や受験までの学校外の教育は自費負担である。さらに、2009年の「無償義務教育に関する子どもの権利法」制定により、就学義務の徹底と私立学校の授業料不徴収(低所得層対象)の制度化が図られ、義務教育機関の不就学者の進学を閉ざす学校階梯ないし教育制度が整えられつつあり、インドは学校教育の機会の拡充により、皮肉なことに教育選択の自由を制限していく方向に舵を切ったことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現在の状況は芳しくない。アメリカ合衆国での各州非就学型義務教育の形態、政府と家庭の費用負担の割合について、十分な資料収集ができず分析・検討は終了していない。連邦議会図書館および連邦教育省図書館に赴き資料を求めたが入手できなかった。 また、中華圏の動向については、香港、上海、台北を調査するも、いずれも就学型義務教育を前提とした、あるいは拡充発展の途上で学歴競争が展開していた。そして就学前教育についても幼稚園(幼児園)の整備とともに無償化を進めている状況にあり、非就学型教育の機会保障に焦点を当てた政策は、現段階では見いだせなかった。同様にインドでは、近年の憲法改正やRTE法制定により学校選択の自由が保障されて、ホームスクーリングの積極的な意義や政府支援の方向性は否定されることになったと言ってよい。 以上、アジアの非先進国においては、経済成長とともに非就学型から就学型の義務教育制度への移行、学校教育制度の整備拡充が見て取れ、非就学型教育の家庭の費用負担軽減について政府の政策的配慮は捕捉できなかったため、研究目的に直接に沿う研究成果はあげられず、副次的に学校教育に関わりバウチャー等の家庭教育費の格差削減の動向を把握するにとどまった。 ヨーロッパ圏については、パリ(フランス)で現地調査をする予定であったが、年度途中に入院手術のため、要安静の体調となって海外渡航は困難となり、次年度に延期することになった。そのため、インターネット上のデータベースや仏大使館経由の資料収集に研究の遂行は制限され、成果は不十分と言わざるを得ない。非就学型義務教育を認める法規と統計資料の確認はしたが、制度の沿革や導入の思想的背景、現在の社会的評価等に関わる論文や書籍を入手できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、アメリカ合衆国のホームスクーリング運動とティーパーティー運動の思想的一致を検証したい。特に20-21世紀の転換期における両運動の歴史的沿革を辿り、支持層の属性分析をおこない、政府の干渉排除の姿勢、家庭教育の自由の確保と尊重、減税=教育費の税控除等の運動における政治主張を整理する。同作業は、家庭教育費の税控除や奨学団体への寄付控除が伝統的アメリカ民主主義に立脚した公教育制度の補完的制度となる可能性を検討するものでもある。 また、21世紀以降のサイバーチャータースクールの導入と選択家庭の属性分析を通して、ホームスクーラーの変容過程を検討し、公立学校への就学忌避という様態の基底要因を抽出する。すなわち、従来のホームスクーリングと在宅型公立学校の相違と類似点を整理し、社会統合と社会性の獲得という伝統的公立学校の機能への社会的評価の実態を調査し、ホームスクーリングの公立学校制度への包摂の功罪を推論することになる。 さらに、ホームスクーラーの組織団体及びその活動形態、特にインターネットを通じたネットワーク組織の構築やコミュニケーションの実態を調査し、社会集団としての性格分析をおこない、「コミュニティ」の可能性の是非を検討する。この作業により、子どもの社会化の過程において、インターネットを通じた教育の有効性の是非あるいは範囲を吟味することになる。以上については、今年度の研究遂行過程で収集した資料の検討により可能であるが、必要の生じた場合は、渡米し現地調査をおこなう。 ヨーロッパの非就学型義務教育の制度について、イギリスおよびフランスに焦点を当てて、根拠法、利用者数と属性、費用負担の現状など調査を進める。これには、両国の教育省の担当部局行政官と面談し、現行制度の説明を受け、かつ検討資料や研究者について助言を求める必要があり、勤務大学内外で研究協力を求める。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の資料収集不足、現地調査の実施延期が、研究費の未消化として示されている。次年度は、繰り越された研究費を書籍購入や資料複写費、データベース資料の購入費に充当し、研究資料の充実に努め、未完了の分析検討作業を遂行する。予定していた研究対象国への現地調査を精力的に進め、成果を学会で報告し、これらに予算を予定枠を超えて費用を充当する。具体的には、9,10月に英仏現地調査を各々2週間の長期に実施し、ホームスクーリングないし非就学型義務教育の制度概要を把握する。さらに、英米仏日の先進国の義務教育に関わるホームスクーリングの思想的沿革、実態、制度の整備状況を整理比較し、10月の日本教育行政および教育制度学会で報告をおこなう。 また、アメリカ合衆国のホームスクーリング支援団体事務局(HSLDA)及びシンクタンク所属の研究者との面談調査が未実施となっている。これについては、1,2月に再度渡米して現状の分析や今後の動向について、サイバーチャータースクールの在籍者数の増加傾向と併せ、意見を交換する予定である。 さらに、昨年度までの研究調査から、日本の東日本大地震のような大災害後の児童生徒の教育機会を保障する施策として、ホームスクーリングへの税控除政策を採用したルイジアナ州(カトリーナハリケーン)の事例が参考になると判断している。物理的な学校教育の消失に即時に代替できる教育実践の認容と政府の費用負担の在り方の先例として、同州の災害対策としてのホームスクーリング支援には着目すべきである。こういった観点から、近年の同州におけるホームスクーリング選択者数の増減の動向と政策の成果分析を開始する。必要の生じた場合、1-3月に州都ニューオーリンズでの現地調査を実施する。
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