研究課題/領域番号 |
23653256
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研究機関 | 福山市立大学 |
研究代表者 |
斎木 喜美子 福山市立大学, 教育学部, 教授 (30387633)
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キーワード | 占領下台湾 / 川平朝申 / 古藤実冨 / 児童雑誌 / 戦後沖縄 / 児童文化 / 児童文学 |
研究概要 |
本研究は、戦後初期の沖縄で児童文化・文学の復興を担った人々が、日本統治下における台湾との文化交流をルーツとしていた点に着目し、その実態を調査し明らかにすることで、戦後沖縄の児童文化・文学活動の展開過程、全体像を解明することを目的としている。とりわけ終戦直後の沖縄本島で文化行政官として活躍し、同時に児童文化活動や児童文学の創作に関わっていた川平朝申(1908-1998)と、八重山で子ども新聞の発行や児童雑誌「青い鳥」の発行など、文芸復興に尽力していた古藤実冨(1906-1961)にフォーカスし、彼らの仕事が戦後史に持つ意味を、作品内容の分析や生育史、教育状況、時代背景、台湾での文化的蓄積等を基軸に解明することを目指している。 本年度は、日本統治下の台湾で発行されていた新聞や雑誌の記事の内容を具体的に検討するとともに、沖縄県内で刊行されていた川平朝申の児童書および川平の自伝的記録である「わが半生の記」を調査し、収集した。また、昨年那覇市立博物館が開催した「川平朝申と沖縄文化」展において川平の直筆原稿や児童劇台本等の資料を収集し、年譜を入手することができた。その研究資料を基に、昨年7月に開催された沖縄文化協会研究発表会、今年3月に開催されたシンポジウム「川平朝申とその時代」において研究発表したことが成果としてあげられる。 さらに、川平朝申によって戦後初めて出版された絵本『ねむりむしじらぁ』(儀間比呂志・絵、福音館書店、1970年)の原画展示を沖縄県うるま市内で開催し、今では絶版となってしまった川平の児童文学の仕事の一端を一般に公開し、絵本画家の儀間氏から絵本出版に関わる経緯について聞き取りを行った。戦後沖縄児童文学の貴重な資料として地元のマスコミからの関心も高く、6日間で1700名の参観を得たことも、研究の波及効果の一つとしてあげられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度計画した研究は以下の点で評価できる。 1.昨年度台湾で収集した児童雑誌、新聞等の資料に加え、沖縄県内で発行された川平の児童書、自伝、雑誌掲載記事、年譜等の資料を新たに収集できたこと。 2.資料の内容分析に取り掛かり、「川平朝申の児童文学」「日本統治下台湾における川平朝申の児童文学」等を研究発表するとともに、沖縄タイムスにおいて「川平朝申の児童文学」シリーズを4回にわたって連載し、成果を広く発信できたこと。 3.川平朝申の実弟、朝清氏に聞き取り調査を実施できたこと。 4.なお、現在上記の成果をもとに論文を鋭意執筆中であるが、年度内投稿の調整がつかず25年度になる見込みとなったため、この評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画では、本年度の研究過程で新たに見出された課題について、引き続き解明に努めたい。 1.日本統治下の台湾における児童文化・文学活動に関する先行研究を整理し、川平朝申や古藤実冨の果たした役割、彼らの作品にみられる主題・思想等を分析し解明する。 2.琉球大学附属図書館に、戦後初期の「うるま新聞・子ども版」が保存されているとの情報を得たため、資料調査を行い川平や古藤の足跡を確認する。 3.八重山、および台湾における児童文化活動の実態調査を行い、川平や古藤以外の潮流についても発掘し、次の課題への展開を図るとともに、戦後初の絵本となった儀間比呂志と川平朝申の仕事についてもさらなる追跡調査を行いたい。 なお次年度は研究の最終年度に当たるため、上記の課題を加えて考察と研究のまとめを行い、研究成果報告書を作成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費使用計画は調査研究旅費、文献等収集及びパソコン購入、「研究成果報告書」作成・印刷費を中心に使用する予定である。 まず調査研究面では、沖縄県の琉球大学付属図書館、那覇市立歴史博物館、沖縄県立図書館、沖縄公文書館等で引き続き資料調査を行う。また、八重山や台湾も視野に入れて新たな資料発掘に努めたい。 さらに『守礼の光』『沖縄教育』『台湾教育』等の文献収集を引き続き行い、これまで収集してきた資料の漏れを補う。また、数年来使用してきたパソコンが故障したため、新たに購入する予定である。 研究推進の方策にもすでに示した通り、次年度が研究最終年度となるため、3年間の研究成果をまとめた研究成果報告書を作成し発行する。国内の研究機関に発送し、今後の研究に役立てたい。
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