本研究は、教員採用を多角的に捉えることを目的としてスタートした。まず、教員採用を、大学と試験予備校との関係性から考察した。現在、各大学が教員採用試験対策のための講座を設けたり、試験予備校が出張講義を行うといったような現状がある。また教員採用試験の出題問題には、大学の教職課程での学びが、反映された設問となっているとは言い難い。これは、教職課程の学びだけでは採用試験に合格することができないという現状を示している。また、各教育委員会も、学生の学力低下論を後押しにして、試験予備校の対策講座を歓迎しているといった場合もある。 次に、各教育委員会に行ったヒアリングからは、採用にかかわる教育委員会の業務の多忙化および、習慣化した作業の現状が明らかになった。すなわち、教員採用の実務担当者は、滞りなく採用試験を実施するために一年を通して奔走することになり、教員採用現場での課題を教育委員会に報告することはできたとしても、その報告が制度を根本的に問い直すきっかけにはなっていないということがわかった。 以上からは、教員採用の市場化といった傾向が指摘できると思われる。この市場化が進んだ場合には「どのような教師を選考するか」といった理念的側面よりも、「教員不足をどのように補うか」、「世論が納得できる採用方法は何か」といった実際的側面が強調されることとなり、教員採用の目的と「選考」という方法がかみ合わないといった結果をもたらすと思われる。つまり、教員採用システムは、各教育委員会が主導する実際的側面にのみ規定される制度になると思われる。 以上の研究成果は、教育学会、教育社会学会、教師教育学会で発表した。また、最終年度には、今後研究を比較的な側面から実施することを目的に、韓国の教員採用の現状についてもヒアリングを実施した。
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