本研究の目的は、「恵那の教育(生活綴方運動)」「映画・『青い山脈』ロケ誘致」「労音運動」「全日本フォークジャンボリー」「フィールドフォーク」「恵那山みどりの会」といった異なる領域の文化実践が行われた岐阜県東濃地区を研究対象地として、これらの異なる文化実践に対して「小学校教員」を補助線として系譜的に捉え、インタビュー調査を含む実証的研究によって、戦後日本の社会・文化的潮流との関係を視野に入れた東濃地域在住の小学校教員と地域住民との関わりを多角的に考察するものである。 前年度は研究最終年度として、これまでの研究を継続、発展させるとともに総括を行った。研究対象地である岐阜県東濃地区に隣接する長野県の文化実践においては、「公民館」を中心とした繋がりが文化実践を牽引したことが知られているが、岐阜県東濃地区では「公民館運動」は影響力がなかったことが明らかとなった。これに代替するものが公民館という場所ではなく、小学校教員の有志が地域住民との共同という人的な繋がりによって様々な文化実践を行ってきたことが明らかとなった。この人的な繋がりを支えた一つに会報があった。現地図書館にも収録されていない貴重な一次資料の発掘を本研究では為し得た。この一次資料の分析を含めた一次資料を冊子という形態で公開する準備を行ったが、現地の研究協力者の体調不良によって、公開が遅れ、補助事業期間延長を申請し、認められた。 この延長承認をうけ、本年度は、先述の一次資料を冊子という形態で公開することに専念し、297ページ分の会報復刻と解題から構成される報告書として公刊した。また、この報告書刊行に先だって、岐阜県東濃地区の文化実践を「アマチュア主体」という視点から考察した論文(東谷護編著『ポピュラー音楽から問う-日本文化再考-』所収)を発表した。
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