最終年度は,当初の計画に基づき,教科書以外の政治教育教材における現代史の扱い方について,連邦政治教育センターが作成・公表している資料をもとに検討したほか,初年度の調査を引き継ぐ形で,ゲオルク・エッカート研究所において歴史教育課程の調査を行った。特に後者においては,ノルトライン・ヴェストファーレン州を例にとり,低学力の生徒が集中するハウプトシューレの歴史の教育課程において,低学力者の例として言及されることの多い移民というテーマが,戦後の独立回復以前の時期から今日に到るまで,どのように教えられてきたのかという観点から,その変容を分析した。 その上で,過去2年間の調査結果と併せて考察した結果,以下のような仮説的結論が導かれた。すなわちドイツにおいて,今日のように低学力者が民主主義にとってのリスクとして理解され,特別な教育的対応が必要と考えられるに到ったのは比較的最近のことであり,そこにはイデオロギー対立の終焉による政治的コンセンサスの形成と,とりわけ移民の増大による社会の多文化化の進展が関係していると推測される。反対に,こうした政治的・社会的変容が生じた1970年代以前のドイツでは,低学力者としては主に農村に暮らす青少年がイメージされており,彼らは社会的な危険因子としては考えられてはいなかった。社会主義との関係では,確かに労働者の子どもの教育が保守層から不安視されていたが,その不安は正に社会主義者によって共有されておらず,党派を超えた国家的な課題とは位置づけられなかった。社会主義者の目には,むしろ保守的な歴史教育こそが反民主主義的と映っていた。
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