岡山県立美術館では平成22年度「美術館と学校の連携委員会」を組織し、同館の伝統文化コレクション普及のため、水墨画・備前焼を中心とする学習素材のポータブル化(アートトラベリングトランク、以下「トランク」と略称)と拠点校への配備を進めてきた。 本研究費を受け、平成24年度までに、(1)「トランク」のヴァージョンアップ、(2)「トランク」の普及促進にむけた補助教材(リーフレット)の作成、(3)「トランク」配備校の中核教員(=ハブ教員)の教材研究支援、(4)岡山県教育センターでの研修を通じた教員ネットワークの構築の4点にわたり実績を残し、その成果については、平成24年度に、日本美術教育学会および美術科教育学会にて報告を行った。 助成完結年度である平成25年度には「わが国の伝統文化の海外普及の可能性の検証」に集中的に従事した。これは科学研究費補助金交付申請書に掲げた最後の研究課題である。美術館コンテンツのポータブル化をつうじて第一に得られる成果は地理的アクセス問題の解消である。今回の研究プロジェクトの出発点は、岡山県立美術館のコレクションを、来館が地理的に難しい県内の学校でも活用できるようにすることであったが、いったん地理的アクセス問題が解消されれば、その到達可能範囲は県はもちろん、国をも越えて拡大しうる。さらに、われわれがトランクの設計段階で高品質の現物教材をパッケージ化しえたことも重要である。教材の質が高ければ、視覚的アピールはさらに強くなり、「言語の壁」は相対的に低くなる。 9月に中国省浙江省の杭州師範大学にて、3月に台湾花蓮市と高雄市の公立小学校にて、トランクを持ち込んでの日本の伝統文化セミナーを実施した。前者は教員志望学生を、後者は現職教員を対象とするものである。いずれも好意的な評価を受け、今後、海外教員とのさらなる共同研究へと発展しうる関係基盤が構築しえた。
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