本年度は以下の研究を行った。 まず、教科「理科」の世界的な文脈における独自性について検討した。その結果、日本の理科は、明治期に欧米諸国を範としながらも、外国の科学教育を脱文脈化させ、日本の教育文化などを考慮しながら成立したことを明らかにした。その特色が、理科教育の情意的目標として認められる。 次に、理科の学力に関する比較教育史的研究を行った。その結果、日本の理科の学力再考に関し、目的・目標論は、学校教育段階とその後の段階を連続的に捉え、文脈的、社会参加的視座から学力(能力)を再定義する必要があること、そこから学校教育及び理科教育を通して育成すべき人間像が明確化されるべきこと、などを指摘した。科学的知識に関しては、科学がどのように機能するのか、科学の本質など科学についての知識を加える必要があること、その科学的知識は、科学的な証拠に基づいて意思決定を行い、科学に関する価値観を形成するためにも必要となり、このことは、科学的知識が文脈的であり、行動的でかつ科学的教養を持った社会参加にとって極めて重要な役割を担っていることを意味していること、などを指摘した。このように考えれば、改めて観察・実験などの科学的探究活動の意義と価値を再考・再評価し、一方で、論証活動など新しい学習方法の研究や実践が求められることを併せて指摘した。 特に内容構成論については、研究協力者の協力により、中学校理科において科学の本質に関する内容を取り入れた授業実践を行い、その効果の検証を行った。その結果、これまで日本の理科学習では必ずしも十分には扱われてこなかった科学の本質を授業の中に取り入れることが可能であることが認められた。
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