研究課題/領域番号 |
23653304
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
兒玉 修 宮崎大学, 教育文化学部, 教授 (60136801)
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キーワード | 社会科 / 発問 / 対比 / アブダクション |
研究概要 |
本研究の目的は、対比的説明モデルとアブダクションの論理に基づいた社会科発問分析の方法を開発し、その有効性を検証することである。発問の第一義的な機能は、学習者側に疑問を成立させることにある。対比的説明モデル研究の成果によれば、その機能は授業者によって提示される情報とそれと対比される情報(または知識)との関係によって実現するとみなされる。例えば、「なぜQか」という問いは「なぜPではなく、Qか」という対比的な構造において、「事象Aはどのように成立したのか」という問いは「Aの成立の仕方は、それ以外の仕方に対して、何が異なっている(類似している)のか」という構造において分析される。そのような対比的構造の成立が疑問の成立である。 疑問は単に「なにもわからない」状態ではない。それは単に心理的に動揺している状態に過ぎない。疑問は、学習者側にアブダクションが成立している状態、つまり何らかの暫定的な仮説的解釈が成立している状態とみなされるべきである。そうであれば、学習者側での疑問の成立状態は、どのような内容のアブダクションが成立しているかとして分析できる。疑問が成立しているとすれば学習者は何ができるのかという分析である。その内容は、想起される仮説のみならず、その仮説が成立している状態では何が生じ得るかについての想起も含まれる。この内容が、アブダクションによる暫定的解釈の質と量を決定する。 対比的関係を前提にした発問が有効であるのは、そうでない場合と比較して、学習者側にアブダクションが成立しやすく、アブダクションによる暫定的解釈の質と量が異なるからである。アブダクションの論理は、発問の有効性を、学習者が発問によって想起する暫定的解釈の質と量において計測できるような発問分析の方法をもたらしうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
疑問の成立については、対比的説明モデル、アブダクションの論理、語用論的説明理論を用いて説明できるという見通しは文献調査を通じてほぼ立った。しかし、学習側で疑問が成立している具体的な状態をアブダクションの論理のみに依存して解明しようとしたために、学習者の既有知識と疑問を持つ状態との関係を十分に明らかにすることができなかった。そこで、パースの言う「プラグマティズムの格率」も援用しながらその関係を説明していくことに変更した。 また、平成24年度には発問分析に相応しい小中学校での社会科実験授業(対比的関係を明示した「対比授業」とそうでない「非対比授業」)を宮崎県内の小中学校で実施し、本研究で提案する発問分析方法の有効性を、発問の機能と授業改善の可能性において検証するとともに、その成果を報告する予定であったが、実施校との事前協議を通して、対比授業と非対比授業をそれぞれ異なった学級で実験することは発問の機能の正確な測定を困難にすること、及び、当初の計画で実験授業を実施するためには各学級で4時間以上を要することが判明した。そのため、実験授業(対比授業)を1時間分に根本的に再構成し、非対比授業については質問紙による調査で代用するという計画に変更した。 しかし、上記の計画変更は「対比的説明モデルとアブダクションの論理に基づいた社会科発問分析の方法を開発し、その有効性を検証する」という本研究の目的に対して本質的な変更を迫るほどの問題ではないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、本研究で提案する発問分析に相応しい小中学校での社会科実験授業(対比的関係を明示した授業)を構成したうえで、宮崎県内の小中学校で実験的に実践し、本研究における発問分析の方法の有効性を、発問の機能と授業者にとっての授業改善の可能性において検証すると同時に、あわせて質問紙による調査を各学校で実施することによって、本研究の課題を達成したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費については、実験授業を行なうための授業づくり、質問紙づくり、宮崎県内の小中学校教員との研究打合せ、実験授業の実施、ビデオによる授業収録、収録画像の文字化作業、実験授業の分析、質問紙調査の分析、各授業者から提示される発問改善案の分析、本研究の代表者から提示される改善案の提示、研究成果の報告等に使用する計画である。
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