ADHD(注意欠陥多動性障害)のある子どもは落ち着きがなく,読み書きや算数・数学など学業に遅れが生じ自己評価が下がり二次障害に進行するおそれがあるなど,負の循環の視点から理解されることが多い。本研究課題ではこのネガティブな見方を逆転させ,「興味の多様性」として捉え直し,それをADHDの子どもが困難を抱えやすい漢字学習に活かすことで,小中学生のキャリア教育の「自己形成」にどのような影響を及ぼすか明らかにすることを目的とした。教師や保護者へのアンケート調査や聞き取りにより興味の多様性をとらえることを試みたところ,特別支援学校や特別支援学級において担任経験のある教師は子どものささやかな発達や成長のあらわれ,障害特性を含んだ活動に対しても,子どもが楽しそう・うれしそうと感じている活動として共感的な視点から肯定的に見ていることが明らかになった。漢字の書字に対する個別指導を通しては,書字について苦手意識や拒否感情を持っている通常学級在籍のADHDやASD(自閉症スペクトラム障害)の子ども達は,自分で作る漢字の書字問題に興味を持って取り組むことが明らかになった。あわせて漢字や図形の模写における視線追跡の調査を行った。また,子どもの漢字書字に対する教師の評価では,特別支援教育の経験の有無や教師の性差により漢字の書字エラーの評価に差が生じる可能性があることが示唆された。漢字の教示方略では漢字の細部のエラーを修正するためには修正の留意点を子ども自身が自己記録する方法や指導者から直接言語的教示を受ける方法が有効であるなど,課題に焦点をあてた個別指導の重要性が示唆された。
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