研究課題/領域番号 |
23653317
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
小川 巌 島根大学, 教育学部, 教授 (60160743)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2012-03-31
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キーワード | 知的障害児 / 個別の指導計画 / 目標自己選択 / 学びのストーリー / 絵の活用 |
研究概要 |
特別支援学級在籍の中学3年生(IQ45)を対象に、二学期開始時に、担任から聞き取った習得中の四つの目標領域に関わる対象児固有のエピソードを、「できている」-「いない」状態で絵にし、十組の対で提示した。結果、全対で、できている絵を自分に近いものとして選択した。達成度評価は教師に比べ過大であったが、目標行為の習得やその望ましさを意識していることが確認された。次の目標選択とその重み付け手続きでは、「習得の程度に差(現在の-さらに望まれる状態)」がある対の絵を作成し提示した。三つの目標領域(集中、対人マナー等)各二目標(例)集中:現場実習と教科学習)から各領域で一目標を、より頑張りたい目標として選択させ(計三目標)、さらに三目標を二目標の比較対にすることで順位づけさせた。一番に選択された目標は、習得性が低いため教師や保護者によく注意されているもの(対人マナー)、最も低い順位のものは既にかなり修得されているもの(葛藤処理)であった。未習得のもので、高頻度で指導・教示されていることが目標として意識(内在)化されていた。次に、小学校6年生(IQ65)を対象に、3学期末に、教師が重要視している全六目標を絵にし、より頑張りたい目標を四つ選択させ、さらに順位をつけさせた。その結果、高い順位目標には、高頻度で教師が指導・教示するものや、未習得だが「〇君のようにしたい」という具体的発言を伴った目標などであった。以上の結果から、目標を絵にして提示する方法が、指導目標の知的障害児自身による重みづけを可能にし、それが個別の指導・教育支援計画での目標選択のための参考情報となり得ること、さらに担任の聞き取りからも学校生活の中で目標を意識化させる手段として活用できること等が示唆された。なお、二名共に、頻繁に指導される難課題達成を上位目標としていたため、H23年度実施期間内での顕著な習得はみられなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個別の指導計画での目標設定に当事者の意向を反映するための一方法として、目標に関わる彼らの学習・習得の様子を具体的なエピソードとしてイラスト(絵)化し提示し、自己の目標として選択させ、それらを重み付け(頑張りたさによる順位づけ)させる手続きの活用可能性を検討することが本研究の主目的であった。今回、対象とした小・中学生の計二事例において、彼らが絵を介して目標選択と重み付けが可能であることが示され、概ね研究の主目的は達成された。ただし、重みづけた目標間の遂行性の差の検討に関しては、3学期末近くに実施した小学6年生(附属小学校)において観察期間が短く不十分であったことから、今後、中学校(同附属学校)進学後の1学期間での様子を検討する必要がある。なお、中学校には、小学校での個別の目標が引き継がれている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の更なる遂行課題として、本研究で対象とした二名のうちの小学生において、特に、選択・重みづけられた目標に関わる遂行性の検討に必要な観察期間が不十分であったため、(附属小学校からの)附属中学校特別支援学級へ進学後の1学期において、重みづけた目標に関わる遂行性等について検討する。なお、中学校には、小学校での個別の目標が引き継がれた。また小学校での本研究実施結果について新たな中学校担任に伝達・説明済である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度において、下記の理由によって残額(未使用額)が発生した。知的障害児の個別目標の聞き取りを附属学校の教員対象に実施した結果、謝金の支出を必要としなかった。また、知的障害児の個別目標のイラスト画作成を学部生に依頼したため、謝金時間単価が申請時の五千円から九百円になった。これらの結果により謝金支出の総額が申請時のものに比べ低くなった。また、平成23年9月に手術のため入院・加療を必要とする事態が生じたため、当初の実施計画に遅れが見られ、年度内での報告書の作成・印刷が行えなかった。これらの事情により残額が生じた。なお、平成24年3月28日付で補助事業期間の延長(1年間)が認められた。研究最終年度である平成24年度においては、これら残額を、平成23年度当初に計画していた、研究報告書の印刷費および地域の関連諸機関(特別支援学級等)への配付のための郵送費として使用する.さらに残額を、平成24年9月開催(於:筑波大学)の日本特殊教育学会第50回大会において、研究成果を公表するための出張旅費として使用する。
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