研究課題/領域番号 |
23654008
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今野 一宏 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10186869)
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キーワード | 特異点 |
研究概要 |
本研究の目的は,2次元正規特異点の極小解消空間において,例外集合およびその部分集合にサポートをもつ種々のサイクルに対する鎖連結成分への分解を利用して,特異点の種数(幾何種数,算術種数,基本種数)と,重複度や標準サイクルの自己交点数といった不変量相互の関係を示す基本不等式を得ることである.2次元正規特異点の標準サイクルの自己交点数と幾何種数との間の不等式が確立されれば,特異点の研究に地誌学的な観点を導入でき,これまでになされた種々の研究を総括的に概観することが可能になる.ネーター型不等式は,基本種数が2以上の特異点という広大なクラスに対して,特に有効な研究手段を提供することが期待される. 以上を念頭に置いて,当該年度では2次元正規2重点に対して,ネーター型不等式を考察した.この種の特異点については「標準特異点解消」という強力な研究手段を活用することができる.超楕円曲線束に対するスロープ不等式から,成立すべき不等式の形を類推して,標準サイクルの自己交点数と幾何種数の間に成立する不等式を基本種数を考慮に入れた形で証明することができた.これを2重点に対するスロープ不等式と呼ぶ.この不等式を用いれば,例えば,既に泊昌孝氏によって証明されている2重点に対するダーフィー予想を再照明することができる.実際,基本種数が2以上の場合には,われわれのスロープ不等式は泊氏が与えた不等式の精密化となっている.このように,この研究成果は幅広い応用が期待できるものであり,次年度以降の研究進展に寄与することが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2次元正規2重点に対しては所謂「標準特異点解消」が知られており,標準的な解消空間において基本種数,幾何種数,標準サイクルの記述が比較的容易にできる.このような基本的な特異点に対して,基本種数を考慮に入れた形で,標準サイクルの自己交点数と幾何種数の間に成立するスロープ不等式を確立できたことは,現段階では満足すべきことと言える.この不等式は,2重点に限定したものではあるものの,泊昌孝氏によって証明されているダーフィー予想を導くなどの顕著な応用がある.従って,この成果は本研究課題の目的が限定的に達成されたものと言え,今後の研究の指針として重大な意味をもつものと考えられる. 以上のように,本研究はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
2重点に対するダーフィー予想の解決過程を再考すると,ミルナー数を幾何種数や標準サイクルの自己交点数で表示するラウファーの公式が重要であることがわかる.従って,より大きな重複度の特異点を対象にする場合には,例外集合のオイラー数などの位相的性質は言うに及ばず,極大イデアルサイクルの記述やその算術種数を計算する作業を避けて通ることはできない.特に,極大イデアルサイクルに対しては算術種数の非負性を示す必要がある. これらの研究計画を推し進めるためには,各地の特異点論の専門家と問題点を共有し議論を重ね,また,最新の専門書を通じて幅広い知識を身につけることが必要不可欠である.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で必要となる研究費は,主に旅費と書籍購入費である.これは次年度においても変わらない.国内・国外の各地で開催される研究集会やセミナーに積極的に参加して,多くの研究者との意見交換を通じて最新の研究資料を収集する.また,研究集会では得られた顕著な成果を積極的に発表する.これらの目的のため,旅費を有効に活用する.また,最新の書籍を購入して,代数幾何学はもとより,多変数関数論や位相幾何学といった関連諸分野の知識を充実させる.
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