研究概要 |
研究の目的としてあげた,「楕円モジュラーj-関数の実二次点での振る舞いについて,現在実験的にのみ観察されている現象を理論的裏付けを与えることで理解すること,ひいてはそれを通し, 虚二次体上の類体構成に関するいわゆる「クロネッカーの青春の夢」の実二次体版になにがしかの貢献をすること」の達成に向け, 前年度に引き続きマルコフ二次無理数の場合をよく観察することと,実二次整環の caliber についての考察を行った.j-関数のマルコフ二次無理数での値に関連する部分では,海外連携研究者の Don Zagier 氏を福岡に招聘して議論を重ね,若干の進展があったものの,大きな目標である j-関数の実二次無理数での「値」から何らかの代数的量を取り出すことは未だに出来ていない.その考察の過程で得られた,マルコフ数のファレイ分数によるパラメトリゼーションを用いてのマルコフ数のある種の新しい合同関係などについては,一連の考察を含む概説論文を執筆中である.また実二次整環の caliber について,大学院生の坂田英幸と共同で,その偶奇について完全に決定した.現在共著論文を執筆中である.またモジュラー形式との関連では,Zagier 氏と議論したおりに話題となった,有限多重ゼータ値が,古典的な場合と同様に SL(2,Z) の尖点形式の存在とゼータ値の関係式の存在の間に密接な関係があることを示唆する数値実験結果を得た.これを含む,有限多重ゼータ値についての共同研究を開始した.古典的なヤコビのテータ関数の関係式をレベル5や7の場合に考察し新しい知見を得ようとする鍬田政人との研究はレベル6の場合に新しい現象を発見し,その意味づけに取り組んでいる.
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