入力イデアルが非斉次の場合にグレブナー基底候補が実際にグレブナー基底であることを示すために、有限体上での生成関係式の係数を未定係数に置き換えて線形方程式系を作り、それを有理数体上で解くことにより各候補がイデアルに所属することを直接示す方法について、最終ステップの巨大な線形方程式求解がボトルネックとなっていたが、試行錯誤の末、有限体上のLU分解およびHensel lifting を用いた方法が有効であることが分かった。このアルゴリズムを実装し、実行した結果、数年来懸案となっていた、理論物理学に由来するあるイデアルのグレブナー基底候補が実際にグレブナー基底であることが検証できた。 この実装と並行して、Risa/Asir のF4関連実装についても多数の改良を行った。個々の簡約計算の高速化とともに、並列計算を前提とした機能の充実により、グレブナー基底検証計算における、多項式集合が自身の生成するイデアルのグレブナー基底になっていることを示す計算などにおいて、十分な並列計算の効果が得られるようになった。 本研究の目的は、高い確率でグレブナー基底を高速に計算するアルゴリズムの開発であった。これに関しては、有限体上の基底の中国剰余定理による貼り合わせがすぐに思いつく手段であるが、この方法を単純に適用しても、係数の有理数への変換コストのために高い効率は得られない。これを、sugar (全次数)ごとにまとめて変換すると分母がある程度共通になることを見出し、変換コストを下げ、全体の効率を上げることができた。 グレブナー基底候補の検証は、本研究の目的の範囲を超えるものであるが、候補生成に続くものとして避けて通れないテーマであり、本研究中に着手することとなった。これについても、いくつかの提案を行うことができ、本年度において懸案が一つ解決できた。この方法でさらに困難な問題を解決することで有効性を示したい。
|