本研究では、非可換確率論における独立性概念の新しい例を構成し、独立性概念の基礎構造を明らかにした。C*代数とその上の状態の対として定義されるのものが非可換確率空間であるが、そのような非可換確率空間の任意の族に対し、報告者が q-積と名付けた新しい普遍的積演算を定義した。これは q=1 でテンソル積と一致し、q=0 で自由積と一致するという意味において、テンソル積と自由積の1径数補間を与えるものである。テンソル積(=直積)に基づいた伝統的確率論や、自由積に基づいた自由確率論と同じようにして、q-積に基づいた q-確率論をある程度展開可能であるということを、混合モーメントの普遍的計算規則としての q-独立性の存在、q-中心極限定理、q-小数の法則、q-畳み込み演算、q-キュムラントの構成等の結果を通して明らかにした。また、非可換確率論における普遍的独立性概念について、それを、(1) 普遍性、(2) 結合性、(3)延長性、(4)分解性の4つの代数的公理を満たすような積(これを自然積という)として定式化すると「自然積はちょうど5つ(テンソル積、自由積、ブール積、単調積、反単調積)だけ存在する」という分類定理を証明できるが、既存の証明は 102 変数の連立2次方程式を解くことに帰着させる煩雑なものであった (Muraki 2003)。本研究において、この分類定理の証明の単純化を試み、正値性というほとんど無害な仮定を追加した上で、「正値な自然積はちょうど5つだけ存在する」という分類定理を証明した。連立方程式を立てて代数的に解くのではなく、ヒルベルト空間の正値性を利用して不等式による短い証明を与えた。分類定理の単純化については専門誌に掲載済みである。また、q-積の構成やその基本的な性質等については、構成の細かい性質を調べ上げ、さらに整理した上で専門誌に投稿する予定である。
|