研究概要 |
本研究の目的は,一般 3 体問題(G3BP)の周期軌道を再現する差分系を構成することによって,非可積分系の挙動を正確に再現する差分法構築への道筋をつけることである.2009年に構成した差分一般3体問題(d-G3BP)は,G3BPを正則化した後に拘束力学系向けの離散変分法を適用して得られたものである.2012年度には,d-G3BPが角運動量以外の全ての保存量を厳密に保つことを証明し,様々な周期軌道を再現することを数値的に示した(AJ145,63).さらに,d-G3BPがG3BPと同じ平衡解軌道をもつことも証明した(AJ145,64).しかしながら,平衡解軌道を除いて,解析的に存在証明がなされている周期軌道はほとんどない.したがって,平衡解軌道を除く周期軌道の再現性を解析的に示すのは非常に困難である. そこで,2013年度の研究計画を変更し,G3BPと同様に平衡軌道をもつ制限3体問題,N体問題の周期軌道を再現する差分法を構成することを試みた.d-G3BPの構成法を拡張することによって,この試みは成功し,差分制限3体問題(d-R3BP),差分N体問題(d-NBP)を得た.これらの差分系は次の性質をもっている.(i)d-R3BPは主星からなる系がもつ保存量の全てを厳密に,円問題のJacobi積分に対応する保存量を1次のオーダーで保存する.結果として,他の数値解法で再現できなかった様々な周期軌道を再現できる.(ii)d-NBPは角運動量を除いて,全保存量を厳密に保つ.特に質点数が4で,そのうちの1つの質量が十分小さい制限4体問題の周期軌道を極めて高精度に再現する.(iii)N体問題の平衡解軌道をd-NBPが持つことを解析的に示すことができる. 平衡解軌道と保存量を保つ数値解法を与えたことで,数値解法がもつ長時間挙動の再現性への信頼が上がったことが,本研究の意義である.
|