研究概要 |
質量保存則と運動量保存則を満たす流体方程式がNavier-Stokes方程式であるが, 加えて熱力学平衡, 即ちエネルギー保存則を満たす相転移モデルを定式化した. 相転移モデルは流速, 圧力, 温度に加えて自由境界の平衡状態からの高さ関数を未知関数とする非線形方程式系である. 自由境界の法線速度が流速の法線速度と異なるときに相転移が生じるが, このモデルにより相転移現象を記述でき, 流体工学で注目される混相流を表現する. 平成23年度は, 相転移を伴う自由境界問題のLp空間枠での線形化問題の最大正則性と時間局所適切性を示した. 1. 相転移を伴う自由境界問題の線形化問題の最大正則性の証明 Lp関数の空間で準線形な非線形方程式系を解くために, 線形化方程式に対するLp最大正則性の定理の証明を行った. 全空間で上半空間と下半空間を2相とする線形化問題に対する最大正則性を, 時間と接空間成分についてのFourier変換を用いて具体的に解作用素を表示し, 作用素解析を一般化したH∞-calculasの方法で求めた. 高さ関数は2相の密度が等しい場合は, 温度を未知関数とするStefan問題の高さ関数と同じ関数クラスに属し, 2相の密度が異なる場合は, 流速と圧力を未知関数とするStokes 方程式の2相問題の高さ関数と同じ関数クラスに属することが証明された. 2. 相転移を伴う自由境界問題の時間局所可解性の証明 自然界の海の波に対応する深さ無限の摂動層を考える. 自由境界値問題を定常状態を表す固定境界に座標変換すると, 1. の線形化問題に帰着される. この変換により相転移モデルは準線形となるが, 1.で得られた線形化問題の最大正則性に基づき縮小写像の原理によって時間局所適切性を示した.
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今後の研究の推進方策 |
境界が滑らかな有界領域において, 自由界面が境界に接触しない2相相転移モデルの時間大域適切性を証明する. Lagrange変換は初期時刻に境界にある流体粒子は常に境界にあることを要請するため, 相転移問題には用いることができず. 自由界面から固定界面への変換には半沢変換を用いる. 以下の順序で解析を進める. [線形化問題の最大正則性] 相転移モデルは準線形となるため, 固定界面での線形化問題の最大正則性を証明する. これには局所化の方法で平成23年の研究実績1の結果を張り合わせて証明する. [非線形問題の時間局所適切性] 線形化問題の最大正則性の結果を用いて, 縮小写像の原理を適用して相転移モデルの時間局所適切性が示せる. [非線形問題の時間大域適切性] 時間経過後に自由境界が特異性を持ってしまう場合を排除するため初期領域を十分球に近いとする. 原点は線形作用素のレゾルベント集合とならないが, 有界領域の問題であるため, 線形作用素の定義域を原点の核空間で割った空間で考えれば, 原点はレゾルベントとなり時間大域適切性が示せる. [非線形問題の時間大域収束性] 有界領域の中に初期領域は十分球に近い有限個の部分領域があるとする. すべての部分領域は同じ相からなり, 有界領域は2相領域とする. エネルギー保存性より平衡解は, 2相が等密度の場合は部分領域がすべて同じ半径の球に, 2相が異密度の場合は部分領域が異なる半径の球となる. 放物型効果により大域自由境界と大域未知関数は解析的となり, この収束は時間に対して指数安定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
J. Pruess との共同研究のためのドイツ出張旅費, 国際研究集会``Mathflows'' (組織委員:R. Danchin and P. Mucha)での成果発表のためのフランス出張旅費, 国際研究集会"Parabolic and Navier Stokes Equations"(組織委員:R. Farwig, W. Zajaczkowski他)での成果発表のためのポーランド出張旅費が主たる使用予定である。その他、解析学関係図書費、消耗品等に充てる。外国出張旅費が嵩むため, 平成23年度分研究費を若干ではあるが次年度に繰り越した.
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