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2011 年度 実施状況報告書

確率非線形分散型方程式の可解性理論と解の漸近挙動

研究課題

研究課題/領域番号 23654051
研究機関京都大学

研究代表者

堤 誉志雄  京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10180027)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワード確率非線形分散型方程式 / ノイズによる正則化 / ノイズによる安定化 / 時間大域解 / 拡散極限
研究概要

空間1次元において,5次の非線形性を持ち,分散係数がホワイトノイズであるような非線形シュレディンガー方程式の初期値問題の,時間大域的可解性を研究した.このような非線形シュレディンガー方程式は,光ファイバーの数理物理モデルとして現れ,その解析は数学的見地からだけでなく応用上も重要である.また,空間1次元で5次の非線形性を持つシュレディンガー方程式は,2乗可積分ノルムが保存量であり,2乗可積分空間がスケール不変となるため,数学的にきわめて興味深い問題である.5次の非線形性でエネルギーが正定値にならない場合,決定論的な通常の非線形シュレディンガー方程式の初期値問題に対しては,有限時間で特異性を持つ爆発解の存在が知られている.しかし,今回Arnaud Debussche氏との共同研究により,分散係数がホワイトノイズであるような確率的非線形シュレディンガー方程式の場合,非線形項の係数の符号に依らず,解は時間大域的に存在することを証明した.この結果は,ノイズによる正則化またはノイズによる安定化と呼ばれ,近年特に注目を浴びている現象の典型例となっており,内外から高い評価を受けた.さらに,確率過程分散係数のを持つ非線形シュレディンガー方程式の拡散極限として,ホワイトノイズ分散係数の非線形シュレディンガー方程式が得られることも示した.数値シミュレーションを行う際には,滑らかな確率過程の分散係数を持つ非線形シュレディンガー方程式を数値計算するより,ホワイトノイズ分散係数の非線形シュレディンガー方程式を数値計算する方が容易であるため,ホワイトノイズ分散係数の方程式を近似方程式(拡散近似)とみなし計算することはよく行われていた.後者の結果は,ある状況の下では,ホワイトノイズ分散係数の方程式が良い近似となっていることを意味しており,数値計算で行われていた拡散近似の数学的正当性を与えたことになる.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成23年度は確率非線形分散型方程式に対する,ノイズによる正則化を調べたが,おおむね研究は順調に進んだと考えている.特に,光ファイバーの数理モデルである,ホワイトノイズを分散系数として持つ非線形シュレディンガー方程式に対する,ノイズによる正則化の数学的定式化とその証明は当該分野で高く評価された.また,初期値をエネルギー空間から選んだとき,確率分散係数を持つ非線形シュレディンガー方程式のエネルギー空間における確率法則の意味での拡散極限として,ホワイトノイズを分散係数に持つ非線形シュレディンガー方程式が得られることを示したことは,解が属する空間と収束を考える空間が一致しているという点で先行研究の改良となっている. しかし当初予定していた,研究協力者であるAnne de Bouard氏(パリ理工科学校)の京都招へい,及びそれに付随し計画していた研究集会の開催など,いくつかの事業は年度内に実施することができなかった.これらの事業は,本研究課題をさらに進展させるには必要不可欠であるため,平成24年度に実施することを考えている.

今後の研究の推進方策

今まで,ノイズは理論的に推測される現象を乱すものであり,ノイズのないことが望ましい状態であると考えられることが多かった.しかし最近は,ノイズがあるために現実の現象が安定化するのではないか,などのようにノイズの効果を積極的に評価する意見が現れた.その典型例は,ノイズによる正則化 (regularization by noise) あるいはノイズによる安定化 (stabilization by noise) と呼ばれる現象である.しかし,ノイズが加わることにより,なぜ正則化あるいは安定化が生ずるのかという理由は,簡単な例を除けばほとんど分かっていない.そこで,本研究課題では,ノイズによる摂動が,決定論的なシステムにどのような影響を与えるのかを考察し,ノイズによる正則化あるいは安定化のメカニズム解明を目指す.特に最近,Kuksin and Shirikyanによって,複素Ginnzburg-Landau方程式のように散逸項がある系に加法的ノイズを加え,パラメータをうまく選ぶことにより極限として,非線形シュレディンガー方程式のような,散逸項も加法的ノイズも付いていないハミルトン系の不変測度が得られることが示された.ハミルトン系に対しては,Gibbs測度に関する先行研究は多数存在するが,Gibbs測度はその台がエネルギー空間より弱い空間にあるため,滑らかな解全体の集合は測度ゼロとなり,例えば物理的に最も重要なエネルギー空間に属する解の情報を引き出すことができないという欠点があった.しかし,Kuksin and Shirikyanの方法で構成された不変測度は滑らかな解全体の集合の上に台があるため,滑らかな解の情報を引き出すことができるものと予想される.そこで,Kuksin and Shirikyanの方法で構成した不変測度と,偏微分方程式論的手法によって得られる解の関係を調べる.

次年度の研究費の使用計画

日本ではまだ確率非線形分散型方程式を専門とする研究者が少ないため,海外から専門家を招へいし研究打ち合わせをすることは必要不可欠である.そこで,Anne de Bouard氏(パリ理工科学校)とFranco Flandoli氏(ピサ大学)を5月と7月に京都に招き,意見交換を行うとともに講演を依頼する.研究代表者および研究協力者も,当該分野の国外主要研究機関に海外出張する.また,京都大学は日本における確率論研究のセンターであるが,確率微分方程式研究者は必ずしも多くはないので,研究代表者および研究協力者が,確率微分方程式の専門家が多数いる国内の研究機関(東京大学大学院数理科学研究科,東京工業大学大学院理工学研究科,九州大学大学院数理学研究院など)を訪問し,研究打ち合わせを行う.さらに,本研究課題を遂行するためには,非線形波動・分散型方程式の偏微分方程式論的研究と確率微分方程式の確率論的研究の双方が必要となるため,関連した分野の国内の専門家を京都に招き研究打ち合わせを行う. 12月に京都で確率非線形分散型方程式に関する研究集会を開くため,講演者の旅費および会場借り上げ費を支出する.研究資料として,偏微分方程式論,確率微分方程式および応用数学関連の図書を購入する.多量の研究資料を整理するために,大学院生に研究補助を依頼する.

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2011

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] 1D quintic nonlinear Schrodinger equation with white noise dispersion2011

    • 著者名/発表者名
      A. Debussche and Y. Tsutsumi
    • 雑誌名

      J. Math. Pures Appl.

      巻: 96 ページ: 363-376

    • DOI

      10.1016/j.matpur.2011.02.002

    • 査読あり
  • [学会発表] 1D quintic nonlinear Schrodinger equation wit white noise dispersion2011

    • 著者名/発表者名
      堤誉志雄
    • 学会等名
      偏微分方程式の背後にある確率過程と解の族が示す統計力学的現象の解析(招待講演)
    • 発表場所
      京都大学数理解析研究所
    • 年月日
      2011年12月21日

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公開日: 2013-07-10  

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